マターナル・デプリベーション

マターナル・デプリベーション

マターナル・デプリベーションの定義

発達初期における母子相互作用の欠如をマターナル・デプリベーションまたは母性剥奪といいます。

ホスピタリズムの研究で指摘されていた母子分離の問題が、1950年代、ボウルヴィ,J.により、母性の喪失の問題として体系化されていきました。

母子相互作用とは、発達初期における母子間のやりとりのことで、乳児はこれを通して、母と子の絆を確立していくことになります。
これは母親に対する愛着を形成する上で重要であり、また母親が子に対する母性を確立するためにも重要なものなのです。

したがって、マターナル・デプリベーションは、子どもの発達に深刻な影響を与え、愛着不全をもたらすと考えられています。

ボウルビィはまた、孤児院の乳幼児が通常の家庭で育つ乳幼児よりも病気に対する罹患率が高く、身体的・情緒的・知的発達が遅い理由としても、このマターナル・デプリベーションを挙げています。

マターナル・デプリベーションの関連キーワード

  1. ボウルビィ,J.
  2. 母子相互作用
  3. 愛着不全
  4. アタッチメント理論
  5. 安全基地
  6. ホスピタリズム

マターナル・デプリベーションの補足ポイント

愛着(アタッチメント)とは、人や動物が特定の個体や集合体に対して形成する情愛の絆のことです。

ボウルビィは、マターナル・デプリベーションに関する研究から、アタッチメント理論を確立しました。
このボウルビィの理論によれば、愛着は以下の4つの段階を経て発達するとされています。

非弁別的社会的反応段階(0~1、2ヶ月)

人に関心は示すが、人を区別した行動は見られない。

愛着形成段階(2、3~6ヶ月)

母親を他の人と区別した、弁別的反応が見られる。
人見知りが開始される。

愛着対象への能動的近接維持段階(6、7か月~2歳、3歳)

明らかに愛着が形成され、愛着行動が活発となる。
分離不安も出現する。 母親以外の二次的愛着対象へも愛着が形成され始める。

目標修正的なパートナー形成の段階(3歳~)

愛着対象との身体的接触が必ずしも必要としなくなる。
行動範囲が拡大される。

基本的な信頼感が形成されると、母親に必ずしもいつも接触しなくても安全を感じることができることを発見し、母親を安全基地として使用しながら探索活動に熱中するようになるのです。

 
なお、マターナル・デプリベーションと同様の概念としてホスピタリズムがあります。
ホスピタリズムとは、施設で育った子どもの精神発達や人格の問題のことを示す語です。

ただ、障害の原因が施設そのものにあるのではないことなどの理由から、最近ではマターナル・デプリベーションという語を用いることが多くなっています。

MEMO

ヒトが産まれてすぐにある程度自立した生活を送るためには、本来は受胎から出産まで約21ヶ月が必要だと言われています。
しかし、進化の過程でヒトは頭部が大きくなったので、難産を避けるために受胎から10ヶ月程度という生理的早産で産まれるようになったと言われています。

そのため、産まれたばかりのヒトの子どもは、身体運動面では無力です。
その一方で、笑う、泣く、模倣するなどの、他者と相互作用するための高度なコミュニケーション能力を生来備えているのです。