言語剥奪

言語剥奪

言語剥奪の定義

私たちは産まれてから成長する過程で、ほとんどの場合は特別に意識もせずに言葉を覚え、使えるようになっていきます。

しかし、そのように自然に言葉を獲得できるのは、周りの人が話すのを聞いたり、話し掛けられて真似をしてみたりといったやり取りがあるからこそできることです。

こうした言語発達をするために必要な言語刺激が無いこと、そうした状態に置かれることを言語剥奪と言います。

言語剥奪の状態では言葉の使い方を学ぶことができず、聴覚や発声能力、知的能力にはもともと問題がないとしても、適切な言語能力が身につかないと考えられています。

言語剥奪の関連キーワード

  1. 言語刺激
  2. カスパー・ハウザー
  3. 臨界期
  4. 敏感期

言語剥奪の補足ポイント

言語剥奪の事例としては、ドイツのカスパー・ハウザーが有名です。
彼は17歳頃に発見されるまでずっと地下牢に閉じ込められて育ち、発見された当初は歩く、話すといったこともままならなかったと言われています。

言葉を話せなかった以外にも、食べられるものがごく限られていたり、日常生活を送る上での常識的な事柄も理解するのが難しかったようです。

しかし、彼を保護したフォイエルバッハという人が丁寧に養育をしたことにより、他の人間と同じ程度に言語的・知的に発達したと言われています。

 
言語を身につけるにあたっては、幼い時期に学ぶ方が容易に習得できると言われ、語学教育の開始は早ければ早いほどよいと言った意見もよく聞きます。

その根拠として臨界期が説明に用いられることがあります。
子どもが親からさまざまなことを学ぶのに適した時期とされる、生後初期のある短い期間のことを臨界期と言います。

以前は言葉は臨界期に学べばしっかりと身につくが、その時期を過ぎてからでは学習がうまくいかないという考えもありました。
ただし、現在では臨界期を過ぎても、言葉などがまったく身につかないことはないと考えられており、敏感期という言葉が適切だと考えられています。

カスパー・ハウザーの例でも、17歳頃になってからでも言葉の学習が可能であったことが示唆されています。

 
ホスピタリズムにおいては、言語剥奪・愛情剥奪の状態におかれることが多く、施設で育った児童は精神発達や知的発達に問題が生じることが多いと言われます。

言語剥奪の時期があったとしても、言語スキルだけなら後から学習することもできます。
しかし、幼い頃に言葉のやりとりを通じて養育者や周囲の人とコミュニケーションする経験が剥奪されてしまうと、やはり後々まで大きな禍根を残す可能性もあるでしょう。

私たち人間にとっては、言葉はそれだけ重要なものだと言えます。

MEMO

慢性疾患による入院などで、長期にわたって閉鎖施設に入っていると、意欲が低下したり、感情が平板化したりするなどの問題が生じやすいと言われます。
これは施設化と呼ばれる現象で、長期の入院や施設入所によって生じる弊害です。

そうした弊害もあるので、近年では精神疾患による入院をできるだけ長期化させないようにして、地域精神保健やコミュニティケアの整備を促進し、脱施設化をすることが重視されています。