量的研究・質的研究の定義
量的研究とは、複数のサンプルからデータを収集し、事象を数量化し、統計的に分析する研究法です。
実験や調査に代表されるように、仮説を変数関係という量的データとして設定、測定し、統計的にその妥当性を検証します。
また、母集団を代表する多数のサンプルを用いて、母集団にも当てはまるか否か検証を行うことで一般的・普遍的法則性を明らかにする、法則定位的アプローチをとることもあります。
一方、質的研究とは、被験者が表現した内容に関して、その主観的な意味内容に焦点を当てて、状況や場面、そして被験者自身を含めた文脈の全体性について、解釈的理解を行う研究法です。
典型的な心理学領域の質的研究として、事例研究(ケーススタディ)があります。
多くの場合、仮説生成という目的から、多面的・多層的で包括的データを収集する方法として用いられます。
また、被験者の「今、ここ」におけるあるがままについて記述する現象学的方法をとる場合も多く、フィールドワークや参与観察法も質的研究の1つと言えます。
量的研究・質的研究の関連キーワード
- 数量化
- 統計的分析
- 法則定位的アプローチ
- 事例研究
- 仮説生成
量的研究・質的研究の補足ポイント
近代科学では、単一のサンプルの内容や特徴を調査する質的研究よりも、科学的実証主義の影響を強く受けている量的研究の方が主流となっていました。
しかし、発達心理学や臨床心理学などの研究対象には、数量化の難しい要因や、変数として取り扱えないケースも多いことから、1つの事例の内容や特徴を詳しく調べる質的研究が増えてきています。
質的研究は、個人の内面といった主観性も取り扱い、観察される現象の意味についての解釈も重視される解釈学的アプローチをとります。
個人の行為や反応の原因を、その人自身の判断や意志だけではなく、「文脈(コンテキスト)」(その個人が置かれた人間関係や周辺状況など)の中で考えていくのが、質的研究の特徴です。
量的研究のように個人の反応を外部から客観的に判断するのではなく、その個人の内的視点や心理を本人に語ってもらうというアプローチをとるのです。
質的研究の長所は、事例研究の自由度の高さや、被験者の内的世界を取り扱えるという点にあります。
短所として、科学的実証性や客観性の低さがしばしば挙げられますが、質的研究は、主に心理臨床や発達臨床の現場において、事例理解やクライエント理解の手助けとなることが多くあるのです。
なお、被験者本人に自分の内的視点を通して、その感情や判断を語ってもらう方法はナラティブ・アプローチとも呼ばれます。
このアプローチは、自分で自分の人生のプロセスや心情を語ってもらうことで心理的問題が改善するというナラティブ・セラピー(物語療法)にも応用されています。
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