反社会性パーソナリティ障害

反社会性パーソナリティ障害

反社会性パーソナリティ障害の定義

非行や犯罪が行われる原因についてはさまざまな観点から検討されています。

心理学においては、本能的な欲求をうまくコントロールする自我や超自我が身についていないと犯罪行動に至ると考える精神力動論の見解や、他者の攻撃行動を観察学習することが犯罪行動につながると考える学習心理学の見解などがあります。

また、ある特性を持つ人は、それらを持たない人と比べて非行や犯罪に至る可能性が高いといった、何らかの特性やパーソナリティ傾向が存在すると考える立場もあります。

例えば、衝動性が高い、共感性が低い、道徳性が未熟であるなどの特性が、非行や犯罪と結びつきが強いのではないかと考えられ、研究が行われています。

 
パーソナリティに著しい偏りがあり、それによって本人や周囲の人が苦痛を感じたり、社会生活が損なわれたりする精神障害として、パーソナリティ障害があります。

国際的診断基準の1つであるDSM-5には、パーソナリティ障害のB群の下位分類として、反社会性パーソナリティ障害が含まれています。

これは、他人の権利を無視し侵害する性質を特徴とし、犯罪行動との関連が強い障害です。

具体的な症状は、法を破り何度も逮捕される、自分の利益や快楽のために嘘をつく、衝動性や攻撃性がある、自他の安全を顧みない無謀さがある、一貫して無責任である、良心の呵責が欠如しているといったものです。

18歳以降で、こうした症状が3つ以上当てはまり、後述する素行症が15歳以前に生じていた証拠があり、他の精神疾患などで説明がつかない場合に、反社会性パーソナリティ障害と診断されます。

反社会性パーソナリティ障害の関連キーワード

  1. パーソナリティ障害
  2. 外在化
  3. 反抗挑発症(反抗挑戦性障害)
  4. 素行症(素行障害)

反社会性パーソナリティ障害の補足ポイント

その他に非行や犯罪と関わりが深い障害として、DSM-5の秩序破壊的・衝動制御・素行症群があり、その中には外在化障害と言われる反抗挑発症や素行症が含まれています。

外在化とは、自身のネガティブな感情や葛藤を心の中で処理できないときに、他者に反抗する、暴力を振るう、家出するといった形で、それらを外の対象に向けて表現し、対処しようとすることです。

DSM-5において、反社会性パーソナリティ障害は、パーソナリティ障害群というカテゴリー内に掲載されていますが、上述の素行症群のスペクトラムとも密接につながっていると述べられています。

反社会性パーソナリティ障害と、反抗挑発症・素行症とを区別するポイントの1つは、年齢です。

反社会性パーソナリティ障害と診断できるのは、その定義の説明でも触れた通り18歳以降であり、18歳未満の人が診断される可能性があるのが、反抗挑発症と素行症です。

 
反抗挑発症(反抗挑戦性障害)は、DSM-5によると、怒りっぽさと易怒的気分、口論好きで挑発的行動がある、執念深いという特徴があり、通常は就学前に症状が見られます。

イライラしやすく、親や学校の先生などの大人、特に権威のある人に強い反抗を示し、人の要求や規則に従うことを拒否する傾向があります。

 
素行症(素行障害)は、攻撃性が強く、他者の権利を侵害する行動を繰り返し、年齢相応の形で社会的規範や規則に合わせることができないなどの特徴があり、下記のような行動が持続的に見られます。例えば、人や動物に対する攻撃性、所有物の破壊、嘘をついたり窃盗をしたりする、重大な規則違反をするなどです。
これらの症状は、通常は小児期または青年期に現れ、16歳以降の発症はまれです。

秩序破壊的な行動が自然と収まる人もいれば、成人期まで続く人もおり、その場合は反社会性パーソナリティ障害の診断基準を満たすことが多いと言われています。

なお、素行症(素行障害)はDSM-5での名称であり、それ以前のDSM-IVやICD-10では行為障害と記載されています。

MEMO

反社会的に見える行動を呈するその他の精神障害として、注意欠如・多動性障害(ADHD)や前頭側頭型認知症などが挙げられます。

ADHDの子どもは衝動性によって他の子を叩いてしまったり、不注意傾向のためにその場の状況や規則に即した行動が取れなかったりすることがあります。

それに対して、「あなたは我慢が足りない」、「言うことを聞かずに反抗ばかりするからダメだ」と叱るなど、周囲の大人が障害を理解しないで不適切な対応をし続けると、実際に反抗挑発症や素行症に発展してしまうケースがあると言われています。

また成人の場合で、以前は良識ある行動をしていた人が、自己本位的な行動や礼節を欠く言動、暴力などの反社会的な行動を示すようになった場合、前頭側頭型認知症の発症が疑われることがあります。

反社会的な行動が見られたら、その人は反抗挑発症や素行症、反社会性パーソナリティ障害だというわけではないので、行動の原因や前後の状況などを踏まえて、そうした行動をした人のことを総合的に理解することが重要です。