インクルージョン

インクルージョン

インクルージョンの定義

インクルージョンとは、障害の有無、発達特性、文化的背景、言語、性別、社会的立場などの違いにかかわらず、すべての人が同じ社会や集団の一員として排除されることなく参加し、尊重されながら共に生きることを目指す理念および実践を指します。

この概念は単に「同じ場所にいること」を意味するものではありません。
重要なのは、個人を既存の枠組みに適応させるのではなく、環境や制度の側を調整・再構築することによって、多様な人々が参加可能な状態をつくるという発想の転換にあります。

教育領域では、障害のある子どもが特別な場所に分離されるのではなく、通常の学級において必要な支援を受けながら共に学ぶ体制を整えることが重視されます。
福祉や労働、地域社会においても同様に、「違いを前提とした社会設計」を行うことが核心となります。

インクルージョンは、従来の障害の有無で教育・生活環境を完全に分ける「分離」や、障害のある人が「普通の枠組み」に合わせる努力をする「統合」の考え方を乗り越え、より包括的な社会の在り方を提示する理念であり、現代の共生社会を支える中心概念の1つです。

インクルージョンの関連キーワード

  1. 共生社会
  2. ノーマライゼーション
  3. インクルーシブ教育システム
  4. 合理的配慮
  5. 社会モデル
  6. ICF(国際生活機能分類)
  7. ユニバーサルデザイン

インクルージョンの補足ポイント

インクルージョンを理解するためには、まず歴史的背景としてのノーマライゼーションとの違いを押さえることが重要です。
ノーマライゼーションは、障害のある人が「できるだけ通常に近い生活」を送れるようにするという理念でした。これは画期的な思想でしたが、「通常」という基準自体はそのまま残されていました。

これに対しインクルージョンは、「通常」という前提そのものを問い直します。社会の基準に個人を近づけるのではなく、社会の側が多様性に合わせて変化するべきだと考えるのです。この点において、インクルージョンはノーマライゼーションの発展形と位置づけられます。
 

教育分野では、この理念がインクルーシブ教育システムとして具体化されています。
これは、障害のある子どもとない子どもが可能な限り共に学ぶ仕組みを整えることを意味します。

ただし、常に同一空間で学ぶことを絶対視するのではなく、本人の教育的ニーズに応じて特別支援教育の専門性も活用しながら柔軟に支援体制を組み立てるという点が重要です。

その際、実践上の中核概念となるのが合理的配慮です。
合理的配慮とは、障害のある人が他者と平等に機会を得られるように、過重な負担にならない範囲で必要な調整を行うことを指します。
例えば試験時間の延長、教材の形式変更などが挙げられます。
 

インクルージョンの理論的背景には、障害を個人の欠陥とみなすのではなく、社会環境との相互作用によって生じると考える社会モデルがあります。
この視点は、WHOの提唱したICF(国際生活機能分類)にも反映されています。

ICF(国際生活機能分類)では、個人の心身機能(生物学的側面)だけでなく、環境因子や個人因子との相互作用によって生活機能が規定されると考えます。
インクルージョンの実践とは、この環境因子に働きかけて障壁を取り除くプロセスそのものであると言えます。

つまり、ICFでは、障害を「個人の属性」ではなく、環境因子(階段、偏見、制度の不備など)との不適合によって生じる「状態」として捉えます。「歩けないから参加できない(個人モデル)」のではなく、「段差があるから参加できない(社会モデル)」と考え、その段差を取り除くこと(環境調整)がインクルージョンの実践となります。
 

さらに、インクルージョンはユニバーサルデザインの考え方とも密接に関連しています。
ユニバーサルデザインは、最初から多様な人が使いやすい設計を行うという発想です。
合理的配慮が「個別的対応」であるのに対し、ユニバーサルデザインは「構造的対応」と言えます。
合理的配慮を効果的に提供するための土台として、基礎的環境整備(点字ブロックの設置や支援体制の構築など、あらかじめ全体に対して行われる準備)が重要です。ユニバーサルデザインや基礎的環境整備が充実しているほど、個別の合理的配慮の負担が軽減されるという相補的な関係にあります。

このようにインクルージョンは、理念、制度設計、心理的支援、社会構造の調整を含む、極めて包括的な概念です。

公認心理師試験対策 確認問題

インクルージョンに関する記述として、最も適切なものを1つ選べ。

① 障害のある者が可能な限り通常の生活に近づくことを目指す理念である。
② 障害は個人の機能障害に起因するものであり、医学的治療が最優先される。
③ 障害の有無にかかわらず、社会の側を調整し、多様な人が参加できる環境を整える理念である。
④ 特別支援教育を廃止し、すべての児童を同一条件で教育する考え方である。
 

【解答】

①はノーマライゼーションの説明です。
②は医学モデルの立場です。
④は誤りであり、インクルージョンは特別支援教育を否定する概念ではありません。

大学院入試や公認心理師試験では「ノーマライゼーションとの違い」を問う問題が出題される可能性があります。
インクルージョンは社会モデルの立場に基づき、社会や環境を調整することで多様な人の参加を保障する理念です。