自我同一性の定義
自我同一性とは、エリクソン,E.H.が提唱した精神分析的人格発達理論の概念で、アイデンティティとも呼ばれます。
主体性、独自性、過去からの連続性、主観的実存的意識や感覚の総体のことで、いわば「これこそが自分自身である」といった実感を示す言葉です。
エリクソンによれば、自分の存在意義に関わる問いに対し、自分自身を形成していく青年期において、獲得されるべき心理社会的課題でもあるとされています。
明確な自我同一性を安定して保つことができていれば、将来に対する不安や人生に対する無気力、職業生活に対する混乱を感じる危険性が低くなるでしょう。
しかし反対に、獲得に失敗した状態、つまり自己が混乱し社会的位置づけを見失ってしまったような状態を自我同一性拡散といい、自滅的になる、選択や決断ができない、対人関係や仕事がうまくいかないといった問題へとつながる危険があります。
自我同一性の関連キーワード
- エリクソン,E.H.
- ライフサイクル論
- 青年期の心理社会的発達課題
- モラトリアム
自我同一性の補足ポイント
人間の心理的発達に関する提唱者として、最も有名な一人がフロイト,S.です。
フロイトは、性的欲動をリビドーと呼びました。
そして、これが乳幼児期から存在する心的活動に必要なエネルギーと考えるとともに、口唇期、肛門期、エディプス期、潜伏期、性器期を経て、人間は心理的に発達していくという「心理性的発達段階説」を唱えました。
さて、今回の「アイデンティティ」という概念を提唱したエリクソンE,H.は、フロイト理論を受けついだ自我心理学派の一人である精神分析家です。
エリクソンは フロイトの心理性的発達段階を拡張し、人間の一生を8つの発達段階に分け、各段階ごとの課題が肯定的に解決された場合と否定的に解決された場合のパーソナリティ構成要素を、対にして示しました。
このエリクソンの理論が「心理社会的発達理論」や「ライフサイクル論」などと呼ばれるものです。
ライフサイクル論における青年期の課題が、「自我同一性 対 自我同一性拡散」であるわけですね。
エリクソンは、青年期を自我同一性確立のために社会的責任が猶予されているモラトリアムの時期と考えました。
モラトリアムとは、本来、債務支払いの猶予などを意味する経済学用語ですが、エリクソンはこれを、身体面では発達を遂げても心理・社会的にはまだ未発達な青年期の特質を示すために用いたのです。
自我同一性拡散と関連が深いものなので、あわせて整理しておきましょう。
以上のように、自我同一性は青年期の発達課題として有名ですが、この時期限定ではなく、生涯にわたる課題としてエリクソンは考えたことも押さえておきましょう。
また、ライフサイクル論については、青年期以外の発達段階についても確認しておいてくださいね。
青年期だけでなく、中年期においても環境的、心理的変化から自我同一性の再構築が求められることもあります。
中年期における発達課題や適切なアプローチについてもまとめておくといいでしょう。