動機づけの定義
動機づけとは、何かに向かって行動を起こさせ、その行動を持続させる過程やその機能のことです。
動機づけはmotivation の訳語ですが、最近では日常でも、やる気や行動の原動力といった意味合いで、そのまま「モチベーション」という言葉で用いられるようになってきています。
動機づけを理解する上で、まずは類似の概念である欲求について見ていきましょう。
欲求とは、不足を埋めようとする心の働きであり、人間の行動の源となるものです。
欲求についてさまざまな研究が行われていますが、その中でも、マレー, H. A.の研究に端を発する一次的欲求と二次的欲求という分類や、マズロー, A. H.の欲求の階層説などがよく知られています。
ここでは前者について紹介します。
一次的欲求とは、人間が生まれ持っている生きるために不可欠な欲求であり、食事、睡眠などに関する生理的欲求のことです。
そして、二次的欲求とは、生活や学習の中で獲得される社会的な欲求を指します。
マレーはこの社会的欲求を細かく分類し、動機づけの種類のリストを作成しています。
その中には、誰かと仲良くなりたい、誰かに認められたいなどの親和動機や、試験に合格したいなどの達成動機などが含まれています。
動機づけには、動因と誘因という2つの下位概念があります。
動因は行動の原動力となるもので、欲求や意欲がこれに該当します。
そして、誘因は行動の目標となる外的刺激のことです。
動因が食欲だとすると、誘因は食事などになります。
なお資料によっては、動機づけと欲求を同義として扱っているものもありますが、動機づけはより広い概念であり、動因(欲求)や誘因を含む過程全体を意味すると考えるとよいでしょう。
お腹が空いて何かを食べたいと思っているときは、体が食物の不足を埋めようとして食欲を感じる状態になっており、欠乏動機が生じていると考えます。
そのとき、食事という誘因を得ることができれば、動因が満たされて食行動は停止します。
このように欠乏動機による行動は、誘因を得ることで動因が低下するということです。
それに対して、楽しいから読書をするといった、この後に説明する内発的動機づけが生じている場合は、読めば読むほど知的好奇心という動因が高まり、行動がさらに促進されます。
動機づけの関連キーワード
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- 内発的動機づけ
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動機づけの補足ポイント
動機づけは、内発的動機づけと外発的動機づけに分類できます。
内発的動機づけは、知的好奇心などの内的要因によるものであり、外発的動機づけは、賞罰や他者からの評価などの外的要因によるものです。
内発的動機づけによる活動は、その活動をすること自体が目的になっており、誰かに促されなくてもその活動を維持し、発展させることができます。
1940年代の心理学においては動因低減説が主流であり、例えば人は喉が渇けば、その動因を低減させるために誘因である水を飲み、それによって動因が低下するとその行動が強化されると考えられていました。
これは、人間は不都合な状態が生じない限りは行動を起こさないことを示していると理解されていたのです。
しかし、人間はそのような受動的な存在ではなく、自ら知識を求めたり、学んだりする能動的な存在ではないかという反論が生じて、内発的動機づけという概念が提唱されました。
内発的動機づけを高めるものとして、コンピテンスや自己決定感があります。
コンピテンスは有能感と訳される概念であり、人間が社会生活に適応したり、その時の状況に柔軟に対応したりする潜在的な力を指します。
また、生活の中で周囲と関わりながら自分の能力を確認し、できることをさらに拡張しようとする動機づけという側面もコンピテンスには含まれています。
コンピテンスには自己効力感の側面も含まれており、人間は自分の活動を褒められると、自分が有能であることを認識でき、その結果、内発的動機づけが高まるとされています。
デシ, E. L.とライアン, R. M.が構築した自己決定理論では、人間にはコンピテンス、自己決定感、関係性の3つに対する欲求があるとされています。
つまり、人間は周囲と関わりながら、自らの能力を拡張し、自分の行動を自律的にコントロールしようとする存在であると考えられています。
この理論では、動機づけは内発的か外発的かと二分されるのではなく、1つの連続体として捉えられています。
最初は外的要因に動機づけられた行動であっても、その行動自体に価値を見出すようになれば、次第に自律的な動機づけによる行動になっていく可能性があると想定されています。
自己決定理論では、内的要因や外的要因による動機づけは、自律性という観点から捉えられています。
何を行うかを自分で検討し、行動を選択、決定し、自らをコントロールして主体的に活動に取り組もうとするような、自律性の高い動機づけのことを、自律的動機づけといいます。