長期記憶

長期記憶

長期記憶の定義

長期記憶は、短期記憶と共に記憶の二重貯蔵モデルにおける概念です。

リハーサルによって数分から数十分程度保持される貯蔵庫に送られたものを短期記憶といいますが、さらに海馬を通して、永続的な貯蔵庫へと送られるものを長期記憶といいます。

長期記憶を蓄える貯蔵庫は、長期記憶貯蔵(LTS)と呼ばれます。

長期記憶は、短期記憶とは異なり、精緻化・体制化などにより無限の容量を持つのが特徴で、エピソード記憶や意味記憶といった言語的レベルでの宣言的記憶と、認知・行動レベルでの手続き的記憶とに分かれます。

 
なお、長期記憶の忘却の原因については、時間の経過と共に記憶が失われていくという「減衰説」、他の記憶と干渉を起こすことによって記憶が失われていくという「干渉説」、また、想起の失敗は記憶された情報自体が消失しているのではなく、適切な検索手がかりが見つからないため、記憶内の情報にアクセスできないという「検索失敗説」が存在します。

長期記憶の関連キーワード

  1. 記憶の二重貯蔵モデル
  2. 長期記憶貯蔵
  3. 宣言的記憶
  4. エピソード記憶
  5. 意味記憶
  6. 手続き的記憶
  7. 精緻化リハーサル

長期記憶の補足ポイント

長期記憶は、記憶される情報の内容によって宣言的記憶と手続き的記憶とに区分されます。

宣言的記憶とは、言葉によって記述することができる事実についての記憶です。
教科書を使った学習や知識などがこれにあたります。

宣言的記憶はさらにエピソード記憶と意味記憶とに区分されることがあります。

 
エピソード記憶とは、例えば、「今週の水曜日は図書館で勉強をしていた」といったような、時間的・空間的文脈の中に位置づけられる個人的な出来事の記憶です。

エピソード記憶の情報の特性として、事象やエピソードが情報の単位となっていて、時間的に体制化されていること、自己が指示対象となっていることが挙げられます。

被干渉性が大きく、情報へのアクセスは意図的で、検索の報告において「覚えている」という語を用います。

 
意味記憶とは、例えば、「りんごば果物だ」という定義や「1+1=2」といった数式の他、一般常識や歴史上の事実などの記憶を指します。

意味記憶における情報の特性として、まず、その情報が理解されることが必要であること、事実・観念・概念が情報の単位となっていて、概念的に体制化されていることなどが挙げられます。

被干渉性が小さく、情報へのアクセスは自動的で、検索の影響は受けにくく、検索の報告において「知っている」という語を用いる場合が多いとされています。

 
一方の手続き的記憶とは、技能や一連の手続きに関する記憶のことです。

言葉で説明するのは容易ではない場合が多く、意識しないで使うことができます。
いわゆる「身体が覚えている」といったものです。
例えば、自転車の乗り方、楽器の弾き方などです。

脳に特定の障害を負った人たちの研究から、手続き記憶とエピソード記憶は脳の中の異なった部位を使用しており、独立して機能していることが示唆されています。

MEMO

覚えるべき情報について、他の情報と結びつけたりすることで記憶を定着しやすくすることを精緻化といい、この手続を経て情報を短期記憶から長期記憶に移行させることを精緻化リハーサルといいます。

例えば、呈示された言葉を覚える課題で、「温和」という単語が2回呈示されるとします。
その際、2回とも「温和・穏健」と一緒に対呈示するよりも、1回目は「温和・穏健」、2回目は「温和・乱暴」のように、別の同義語や対義語を一緒に提示すると、「温和」という言葉を後から思い出しやすくなることがわかっています。
これは、「温和」という言葉に関する情報が増えて精緻化されるからだと考えられています。

ただし、精緻化にあたって、結びつける情報が何でもよいわけではなく、覚えるべき情報と意味的に関連する内容を結びつけると、精緻化が促進されます。