忘却

忘却

忘却の定義

忘却とは記憶の過程の1つであり、記憶した情報が失われたり、変わってしまったりすること、またはその情報を思い出せないことです。

一度覚えたことでも、時間が経つとその内容は忘れられていきますが、その情報を再度覚えようとする場合には、初めて覚えた時ほどは時間がかからないことが多いでしょう。

 
エビングハウス, H.は、VEJのような子音-母音-子音の3文字の無意味綴りのリストをすべて覚えた後、数分後、数時間後、数日後などに同じリストを覚えるという、再学習法を用いた実験を行いました。

その結果、一度覚えたことは、再度記憶する際には覚える時間が短縮することが見出されました。

最初に何かを覚える時にかかった時間と、一定時間後に同じ情報を再度覚え直す時にかかった時間の差を節約量といいます。

所要時間の節約の程度は節約率として算出され、下記のような忘却曲線としてグラフにすることができます。
忘却曲線を見ると、時間が経過するほど節約率が低下しており、再学習にかかる負担が増加していくことがわかります。

忘却曲線

 
なお、記憶した情報は時間と共に忘却されていきますが、記憶直後よりも一定期間が経過してからその情報を思い出した時の方が記憶成績が良好になることもあり、これはレミニセンスと呼ばれます。

忘却の関連キーワード

  1. エビングハウス, H.
  2. 節約率
  3. 忘却曲線
  4. 手がかり依存忘却(検索失敗)説
  5. 干渉説
  6. 順向抑制
  7. 逆向抑制
  8. 減衰説
  9. 抑圧説
  10. 指示忘却

忘却の補足ポイント

忘却には複雑な要因が関連していると考えられており、手がかり依存忘却説、干渉説、減衰説、抑圧説や、器質的要因によるとする説などが提唱されています。

手がかり依存忘却(検索失敗)説は、情報を記憶する時には存在した手がかり刺激が記憶の想起時に欠けていると、記憶の検索に失敗して忘却が生じるという説です。
適切な手がかりが与えられると、想起できる可能性が高まると考えられています。

 
干渉説は、覚えるべき内容が他の内容と混同されたり、誤って関連づけられたりすることで忘却が生じるという説です。
無意味綴りを覚えた後に、睡眠を取る群とそのまま起きている群とに分け、一定時間経過後に記憶成績を調べた実験では、前者の成績が優れていました。
記憶後に起きていた群は、無意味綴りを覚えた後に何らかの活動を行ったため、課題内容以外の情報が干渉して忘却が生じたと考えられます。

前に覚えた内容が後に覚える内容に干渉してしまい、記憶を想起することが困難になることを順向抑制といいます。
その逆に、新しく覚えた内容がその前に覚えた内容に干渉し、以前は記憶していた内容の想起が困難になることは逆向抑制と呼ばれます。

 
減衰説は、筋肉は使わなければ衰えるのと同様に、記憶した情報も使わないでいると、時間と共に失われるという説です。
ある物語を覚えてもらい、一定時間経過後にその内容を語ってもらうことを繰り返すと、時間の経過にある程度比例して内容の一部が忘却されていることがあります。
また、忘却によって話に矛盾が生じた箇所は辻褄があうように変えられたり、一部の内容が強調されたりする場合も見られます。

 
上記の3つの説は認知心理学の研究に基づく仮説ですが、抑圧説は精神分析における防衛機制の観点から見た説です。
望ましくない情報や精神的なショックを受けた出来事などは、その情報を想起することで不安が生じないように抑圧され、忘却が生じると考えます。

神経生理学的な観点からは、脳内の神経ネットワークが欠損したり、老化によって変化したりするという器質的な要因によって忘却が生じると考えます。
これは認知症や健忘など、医学的に忘却の仕組みを解明する上では欠かせない視点となっています。

MEMO

被験者に単語を記憶してもらい、さらにその中で覚えておくべき単語と忘れるべき単語を指示しておくと、その後記憶を想起する課題を実施した際に、忘れるべき単語についての記憶成績が低下することを指示忘却といいます。

この現象は記憶を制御し、意図的に忘却していると考えられ、積極的忘却とも呼ばれます。