学習性無力感

学習性無力感

学習性無力感の定義

学習性無力感とは、ある状況下で不快な体験をし、何をしてもその状況を変えることができないことが続くと、あきらめのような感覚が生じ、自発的行動すら起こせなくなる現象を指します。

セリグマン,M.E.P.が1967年に行った実験が有名ですが、この実験ではイヌに対して、どうやっても回避できない(統制不能の)電気刺激を与え続けるというものでした。

イヌは電気ショックをいくら避けようとしても避けられない状況(A)下に置かれ、この状態が続くと「あきらめ」の感覚が生じてきて、電気ショックが来てももはや回避行動をとらず、いつまでも床にうずくまったままになってしまいます。

その後、実験状況が変わって電気ショックを回避できる状況(B)になっても、イヌは前と同じようにうずくまって電気ショックから逃れようとしないことが多かったのです。

その一方、統制不能の状況に置かれたことのないイヌを上記の実験状況(B)に置いてみると、こちらのイヌはいきなりあきらめてしまうことは無く、できるだけ回避行動を取ろうとしました。

セリグマンはこの結果について、電気ショックから逃れられず、自力で状況を変えられないことが続いた場合、どうせ次も何をやってもダメだろうということを学習したのだと考え、これを学習性無力感と呼びました。

学習性無力感の関連キーワード

  1. セリグマン,M.E.P.
  2. 統制不能
  3. あきらめ
  4. 認知的枠組み

学習性無力感の補足ポイント

この実験結果は、人間が抑うつ感を形成するメカニズムにも通じるところがあると言われています。

抑うつ感を抱きやすい人は、勉強がはかどらない、仕事がうまくいかない、といった状況が続くと、自分が無力であると感じます。

以前うまくいかなかったことでも、状況が変われば、少し努力をすることで次はうまくいく可能性もあるでしょう。
しかし学習性無力感の状態に陥ると、何をやってもうまくいかないように思えてきて抑うつ感が強まってしまう場合があります。

セリグマンの理論をもとに改訂学習性無力感理論を呈示したエイブラムソンは、コントロール不能な状況をどのように解釈するかが無力感に影響すると考え、認知的枠組みに関する視点を追加しました。

エイブラムソンの理論では、失敗に直面して統制不能を感じた時に解釈(失敗が自分の能力のせい、今後も続くかもしれない、いつでも失敗するなど)が行われ、解釈の仕方によって無力感が生じ、その度合いも変わってくると考えました。

こうした学習性無力感を感じている人に対しては、失敗を自分の「能力」のせいではなく、「努力不足」のせいであったととらえるよう働きかけるのが有益なようです。

こうして認知的枠組みを変更させることで無力感を解消できる可能性があるため、学習支援の分野などにこの理論が応用されています。

MEMO

学習性無力感のメカニズムは、虐待や家庭内暴力を受けている人にも見られます。

暴力や暴言などから逃げることも抵抗することもできない状態が長期間にわたると、その状況から逃げ出すという選択肢を考えることすらできなくなってしまいます。

虐待や家庭内暴力の例に限らず、学習性無力感を生じている人は、本人にまったく非がないとしても「自分が悪かったからうまくいかないのだ」と自責を感じて、抑うつや孤独感を強めていることがあります。

そうした場合は上述のように、自分の能力や性格に原因を求めるよりも、課題への取り組み方を変える、情報収集に力を入れるなど、修正可能な解決策に焦点を当ててみることが、状況を変える上で役立ちやすいと言えるでしょう。