学習セットの定義
あることを学習すると、その経験が他の学習にも影響を及ぼすことが知られています。
例えばずっとテニスをやっていた人が卓球を始めると、それまでの経験を活かすことができるので、それまで他の球技をやっていなかった人よりも上達しやすいものです。
こうした現象は学習の転移と呼ばれていますが、この転移の一種に学習セットというものがあり、これは「学習の構え」とも言います。
何か新しい課題に取り組む際、その課題への取り組み方や解法がつかめないうちは偶然にしか正解できないことが多いでしょう。
しかし、何度か同じタイプの課題に取り組み、試行錯誤していくとだんだんとコツが掴めてきて正解率が高まっていくものです。
学習セットの関連キーワード
- 学習の転移
- 試行錯誤
- 心的構え
学習セットの補足ポイント
ハーロウ,H.F.は、アカゲザルを対象に、同じタイプの課題に連続で取り組ませるという実験を行い、その中でアカゲザルが「学習すること自体を学習する」現象を見出しました。
この実験では、アカゲザルは課題を呈示されても最初は解き方が分からず、徐々にしか正答率が上がりません。
しかし同じような問題に取り組んでいくうちにどうすれば正答できるかが分かるようになってきます。
そしてコツがつかめてほぼ確実に正解できるようになった頃に、類似の別の課題に移ります。
すると最初は試行錯誤が必要ですが、以前よりもすぐに正解できるようになっています。
こうして何度も課題をこなした後では、問題が変わってもそれまでと類似した問題であれば、すぐに正解できるようになっていきます。
これは、何度も取り組んでいくうちに課題のしくみ、ねらいが分かってきて学び方を学んだと言えるでしょう。
このような現象のことを、ハーロウは学習セットの形成と呼びました。
学習セットの形成は、新たなことを学ぶ際に有益に働きますが、逆に慣れたやり方をするのが当たり前になってしまうことで生じるデメリットもあります。
何かをする際に慣れ親しんだ方法があると、それよりも効率の良いやり方が存在するとしてもそれに気づきにくく、効率の悪い方法に固執してしまう可能性が高くなります。
具体的には、将棋を指した経験がそこそこある人は、こういう時はこのように駒を動かすとよいという定石を身につけていたりするものです。
普段はその知識が有利に働くはずですが、定石にとらわれてしまうと、もっとシンプルでいい手があってもそれに気づかなくなってしまうことがあります。
ルーチンス,A.S.の水瓶問題による研究では、こうした心的な構えがあると、人はかえって効率の悪い方法を取ってしまいがちであることが示されています。
学習セットなどの実験には、ハーロウたちがウィスコンシン大学で開発した、ウィスコンシン一般テスト装置が用いられました。
サルなどの被験体の目の前に、2つの刺激対象が乗った刺激呈示台が出され、正反応とされる方の刺激対象を動かすと、食べ物などの報酬が得られる仕組みになっています。
この実験装置は、学習セットだけではなく、それ以外の心理学実験でも使用されています。