感覚遮断

感覚遮断

感覚遮断の定義

感覚遮断とは、外からの刺激をできる限り少なく、あるいはなくしてしまい、現実世界と切り離されたような状態のことを言います。
感覚遮断の状態になると思考が乱れたり、身体的な違和感を生じたりするようになります。

このことから、人が正常な心理状態を保つためには外界から適度な刺激を受けたり、その刺激に対応して自主的に行動を起こすなどして外界と関わっていく必要があるということが分かっています。

感覚遮断の関連キーワード

  1. 感覚遮断実験
  2. 意識変容
  3. 外界からの適度な刺激

感覚遮断の補足ポイント

人が感覚遮断の状態に陥るとどうなるのかを調査するために行われた有名な実験の1つとして、ヘロン,W.が1957年に行った感覚遮断実験があります。

この実験の被験者は、目隠しをされ、耳栓をつけ、手には筒をはめて物を触ることができないようにされます。
食事とトイレ以外は柔らかいベッドの上で寝ていることしかできない状況に置かれ、視覚・聴覚・触覚刺激の入力を極力制限されます。

被験者は何もすることがないので、はじめのうちはよく眠りますが、目が覚めるとだんだん落ち着かなくなり、何かを目にしたり耳にしたり、触ったりしたいと感じるようになってきます。

こうした状態が2、3日続くと思考に乱れが生じてまとまらなくなったり、物をきちんと考えることができなくなり、また身体的にも違和感などを訴えるようになります。

次第に独り言を言う、口笛を吹く、インターフォンを通じて実験者としきりに話したがるといった行動が見られるようになりますが、これは刺激が少ない状況下で、何とかして自ら刺激を作りだそうとしているのだと解釈されています。
さらに感覚遮断が続くと、人によっては幻覚が生じたり、妄想的な考えが浮かんでくることもあります。

食事を与えられ、快適な部屋に居られて、いつでも眠ってよいという状態はストレスがない状態とも言うことができます。

しかしストレスがほとんどない状態がずっと続くと、それはそれで違うストレスとなってしまうと言えるのでしょう。

長距離の車の運転や、海や山で遭難した時にも感覚遮断による異常体験が生じることが分かっています。
長距離運転の最中にこうした意識変容が生じると、ブレーキが遅れるなどして事故につながる可能性もあります。

この実験から、人が正常な心理状態や認知機能を維持し、心身共に健やかであるためにはストレスがまったくないことも良くはなく、適度な刺激にさらされること、そして外界からの刺激に反応して自ら現実世界に働きかけ、関わっていくことが必要であることが分かりました。

人工的に感覚遮断状態を作りだすアイソレーション・タンクというものを用いた治療法がありますが、適度な感覚遮断は日常のストレスからの解放につながり、良い効果をもたらすようです。
しかしストレスはまったくなければよいというわけでもなく、弱すぎず強すぎないことが望ましいのでしょう。

MEMO

感覚遮断実験やアイソレーション・タンクによる、意識や感覚の非日常的変化が起きた状態は、変性意識状態と言われます。これは禅僧が瞑想中に達する状態に近いと言われています。

変性意識状態を意図的に生じさせることは、スポーツ選手のメンタルトレーニングにも有効です。自己暗示を用いる自律訓練法は、リラクゼーション効果と共に変性意識状態も生じさせると考えられており、緊張緩和や練習効率の向上に有効な方法の1つとして用いられています。