視覚的断崖の定義
視覚的断崖とは、奥行き知覚能力の発達を検証するために、ギブソン,E.J.とウォーク,R.D.によって開発された実験装置です。
高床式の台の床板の部分にガラス板が張られており、床板の模様が見えるようになっており、中心から端に行くにつれて、なだらかな坂になっています。
1メートルほど行ったところで、ガラス板の下にある床板がなくなり、見た目では断崖絶壁で下に落ちてしまうかのように感じられる仕掛けになっているのです。
この装置を使って、生後6ヶ月~12ヶ月の乳幼児の奥行き知覚能力を検証したところ、ほとんどの乳幼児が視覚的断崖のところで立ち止まり、泣くなどの恐怖反応を示しました。
また、別の実験では、生後3ヶ月で視覚的断崖の前で心拍数などの神経生理学的反応に変化が見られました。
以上のことから、生後3ヶ月の時点で、奥行き知覚が可能であり、また、生後6ヶ月の時点では、奥行き知覚と恐怖感情とが連合していると考えられます。
視覚的断崖の関連キーワード
- 奥行き知覚
- ギブソン,E.J.
- ウォーク,R.D.
- 社会的参照
視覚的断崖の補足ポイント
視覚的断崖の装置は、社会的参照能力の実験にも用いられています。
社会的参照とは、問題解決場面や行動選択場面において、自分一人の力だけでは意志決定や行動決定がしにくい場合に、周囲の表情や態度、反応を手がかりにして、情緒的な安定を導き、決定を行う能力のことです。
ここでの周囲とは、多くの場合その人にとって重要な他者になります。
この社会的参照能力が何歳ぐらいから見られるか調べるために、この視覚的断崖の実験装置が用いられるのです。
視覚的断崖の装置の向こうにいる母親に、1歳の子どもに対して手招きをしてもらいます。
すると、子どもは母親の方に向かっていきます。
その時、母親が笑顔や嬉しそうな顔をしていると、いったん、視覚的断崖の前で躊躇はするものの母親の表情を確認し、安心して母親のもとに向かいます。
しかし、母親が悲しそうな表情や怒ったような表情をしていると、視覚的断崖の前で止まったまま動こうとしません。
こうした実験結果から、1歳前後の時点で社会的参照能力を持つと考えられているのです。
視覚的断崖の実験で、子どもが母親の表情を見て自分の行動を決められるのは、母親との共同注意が形成されているからだと考えられます。これは、自分と母親が同じものを見て認識していることを子どもが理解しているということであり、子どもが他者の視点を理解し始めていることを示しています。