奥行き知覚の定義
奥行き知覚とは、観察する人から刺激対象までの空間を三次元的に知覚し、方向や距離感を立体的に把握する感覚のことです。
人間は、視覚や聴覚、触覚を用いて奥行きを感じ取ることができますが、その中で最も安定して奥行きを感じることができるのは視覚です。
奥行き知覚において、観察者から刺激対象までの距離を絶対距離と呼び、ある物からまた別のある物までの距離を相対距離と呼びます。
また、物相互の前後関係については遠近感と呼んでいます。
私たちは通常、左右の2つの眼でものを見て、外界を知覚しています。
左右それぞれの眼に映っているのは二次元の網膜像ですが、両眼の情報を併せることによって三次元的に、つまり立体的に外界を把握することができます。
奥行き知覚の関連キーワード
- 視覚
- 聴覚
- 触覚
- 両眼視
- 三次元的知覚
奥行き知覚の補足ポイント
私たちは片眼を閉じて何かを触ろうとしても、両眼を開いている時に比べるとうまくできないものです。
それは片眼だと立体的に外界を把握できないためです。
奥行きを感じるための手がかりには、眼球を動かす時の水晶体調節、両眼の視覚像のズレなどが使われます。
両眼は片方ずつでそれぞれ微妙に異なる情報を捉えていますが、情報のズレ具合などを総合的に判断して、人は奥行きを把握しています。
こうしたことは普段意識されることはなく、眼や脳がいつの間にか情報処理をしてくれているのです。
その他には、対象の相対的な大きさや高さ、重なり、陰影なども奥行きを判断する手がかりとなります。
また、見ている対象がよく知っているものかそうでないかも、奥行き情報の手がかりになりえます。
例えばバスケットボールとテニスボールが同じ大きさで見えた時、その2つの一般的な大きさを知っていれば、テニスボールの方が自分の近くに置かれていると判断できます。
日常生活ではこうしたさまざまな手がかりがあるため奥行きを判断しやすいのですが、手がかりが少なくなるほど奥行きはつかみづらくなります。
例えば鍵穴から隣の部屋の様子を窺う場合などは、手がかりが少ないので奥行きも判断しにくくなります。
聴覚によっても奥行き知覚が可能で、音源の方向や距離に関する情報を判断できます。
手がかりとしては音の大きさが挙げられます。
自動車のクラクションの音が聞こえた時、それほど大きな音に聞こえなければ遠くで鳴っていると判断されます。
この場合、クラクションの音の標準的な大きさについて知っていることが重要です。
また触覚によっても私たちは奥行きを知覚することができます。
目を閉じて、手に持った竿を振り回すだけでも、その竿の長さについて検討をつけることができます。
私たちは、手の触覚だけではなく、皮膚や筋肉、腱などから得た種々の情報を総合して奥行き情報を判断していると考えられます。
絵画は静止した二次元構造の作品ですが、奥行きを感じ取ることができます。画家たちは、絵の中に重なりや陰影のほかに肌理の勾配を描いたり、遠近法などの技法を用いたりすることで、絵の中に三次元空間を表そうと工夫を凝らしてきました。こうした奥行き知覚を発生させる要素は、絵画的奥行き手がかりとして知られています。