認知的不協和理論の定義
認知的不協和理論は、心の中に生じた矛盾を解消しようとする心理作用を示すもので、フェスティンガー,L.によって提唱されました。
自己や、自己をとりまく環境に関する意見・信念・行動などを「認知」と呼びますが、認知的不協和理論では、その認知要素間に矛盾がある場合を不協和状態と呼びます。
不協和状態は、不快な緊張状態を生起させます。
そこで、この状態を回避しようとして、認知的要素の一方を変化させたり、新たな要素を加えたりして、認知的不協和を低減させるのです。
その方法としては、例えば正当化認知を加えるといったことが考えられます。
有名な具体例としては、喫煙があります。
「タバコは肺がんの原因となる」という話を聞いても、簡単には喫煙をやめることができないとします。
そうした場合に、「たばこを吸っていても長生きの人はいる」「たばこよりも交通事故の方が死亡確率は高い」などといった反論を行うことで、喫煙行動を正当化し、認知要素間の矛盾、つまり不協和状態を緩和させようとするのです。
認知的不協和理論の関連キーワード
- フェスティンガー,L.
- 不協和状態
- 正当化
- 合理化
認知的不協和理論の補足ポイント
フェスティンガーが実際に行った実験は、以下のようなものでした。
男子学生に糸巻きを取り出し並べるといった単純な作業を延々やらせます。
作業後、学生らには女子学生に対し「おもしろい仕事だった」と嘘をついて貰います。
その男子学生のうち、一方の群には1ドルの報酬を、もう一群には20ドルの報酬を与えました。
結果、1ドルを報酬として貰った群が嘘をつくのが非常に上手だったという結果になりました。
これは、20ドルと貰った群は心理的に退屈な単純作業と等価交換という状態になり、嘘を着くほどのモチベーションがすでになかったためと考えられます。
それに対して、1ドルの報酬をもらった群では、退屈な仕事で奪われてしまった時間を埋める為に、嘘(「仕事は楽しかった」)をつくことで、心理的な均衡を得ようとしたのではないかと解釈されたのです。
認知的不協和理論は、社会心理学の用語ではありますが、臨床心理学の防衛機制における合理化と類似する概念とも考えられます。
人間は「思う」ことと、「行動する」こととの間に、多少なりとも矛盾が生じる場合が少なくありません。
そんなとき、認知を歪めることでそれを回避(防衛)しようとするのです。
合理化について確認しておくと、イソップ童話の「すっぱいブドウ」の例が有名です。
合理化とは、努力しても手が届かない対象がある場合に、その対象を「価値がない」「低級で自分にふさわしくない」などとしてあきらめ、心の平安を得る方法のことで、フロイトの心理学において防衛機制の一例とされています。
人は、自分が関わった物事には、価値があると考えたがる傾向があります。
例えば、熱心に参加している団体活動があったものの、この活動は、実はあまり意味のないことだったかもしれないと考えるときがあったとします。
しかしそう考えてしまうと、価値のない活動に大切なエネルギーを費やしてしまったと認めることになり、認知的不協和が生じます。
心の不協和を軽減させたいとはいえ、過去に起きたことは変えられないので、人は自分の認知を変えて、その活動は価値のあることだったと思おうとする側面があると考えられます。