正常性バイアス

正常性バイアス

正常性バイアスの定義

正常性バイアスは、異常を日常の延長線上にある、正常の範囲内の現象として捉えようとすることを言います。

確証バイアスでは、自分の信念や仮説を支持する証拠ばかりを優先して選び、一方で、仮説に反する情報は軽視しやすいことを述べました。
その結果、ある物事が起こる可能性を、人によって、高く捉えたり、反対に低く捉えたりすることが生じます。

正常性バイアスは、主に危険を察知する際に働く心的メカニズムであり、日常的には、心的な安定を保つ役割を果たしています。

例えば、通勤中に電車が急停車したとします。
車内には点検のためのアナウンスが流れますが、多くの人はパニックになることなく、スマートフォンに目を向け続けたり、イヤフォンをつけたままだったりするでしょう。
よほどの衝撃がない限り、「まさか大きな事故ではないだろう」と、避難に向けた行動は取らないのです。
我々は、少し日常と変わったことがあったとしても、すぐにそれを危険であるとは認知せずに、「自分は被害を受けないだろう」と楽観的でいる傾向にあります。

 
この正常性バイアスの誤認により、何百人もの命が奪われたのが、2003年に起きた韓国地下鉄火災事件です。
一人の男性が車内にガソリンをまき、火をつけ、自殺を試みました。
車内は徐々に煙で充満していきましたが、事件後に公表された写真では、多くの乗客は座席に座ったままハンカチなどで口元を押さえていました。
正常性バイアスが実際の災害場面において働くと、避難し遅れて死亡したり、大きな損失を被ったりするのです。

この事件では、周りの多数の乗客が避難していない様子を目にしたことで多数派同調バイアスも働き、「皆一緒にいるから大丈夫」と避難できなくなったという点も指摘されています。
被災後に、「まさかこんなことになるとは思わなかった」などといった言葉を聞くことがありますが、これは自らが被る災害が過小評価されていることの証であるとも言えるでしょう。

正常性バイアスの関連キーワード

  1. 確証バイアス
  2. 多数派同調バイアス

正常性バイアスの補足ポイント

認知バイアスは、日常生活に非常に密接したものです。

例えば、毎日使うドライヤーやシェーバーなどといった電化製品は、使い終えたらその都度コンセントを抜くように説明書に注意書きがなされています。
火事や感電のおそれがあるためです。
しかし、そんな事故は滅多に起きないだろうと、そのままにする人がほとんどでしょう。
これも正常性バイアスによるものです。

 
世界的に流行した新型コロナウイルスですが、このウイルスの存在については、流行直前の年末から年始あたりにはすでに気づかされていたはずです。
しかし、過去のSARSコロナウイルスは日本での感染例はなく、また日本は先進国で衛生状態も良いために、今回も大丈夫であろうと正常性バイアスと確証バイアスのいずれもが働いたと言えます。
しかし、本当の災害時や避難すべきときにこのバイアスが機能すると、異常事態に巻き込まれ、予想もできなかった状態に身をさらすことになるのです。

MEMO

正常性バイアスの誤認を引き起こさないようにするためには、日頃からの情報のインプットや訓練が欠かせません。
正常性バイアスの存在について知ることからはじめ、実際の災害や事故を語り継ぎ、さらには避難訓練をしてすぐに動ける練習をしておくことが重要となります。