関与しながらの観察の定義
関与しながらの観察とは、治療者が臨床実践を行うにあたって重要なこととして、精神科医のサリヴァン,H.S.が提唱した臨床的態度のことです。
participant observation は、もともとは文化人類学などの分野での調査手法の1つであり、サリヴァンはそこから概念を借用してきたと言われています。
上記の社会調査の方法としては、参与観察という訳語がよく用いられます。
ここでは、サリヴァンが提唱した精神医学や臨床心理学における用語について解説します。
フロイト,S.が創始した精神分析では、リビドーを重視した生物学的な視点が強調されていました。
サリヴァンは、精神分析のトレーニングを受けたわけではありませんが、精神分析も関心を持って学び、アメリカ精神分析協会との連携をはかることも長年努めていました。
しかし、従来の精神分析のやり方のみでは患者の治療がうまく行かないこともあると感じ、患者個人内の問題だけではなく、環境の及ぼす影響なども重視するようになりました。
そのような背景のもと、サリヴァンは関与しながらの観察の重要性を指摘するに至ります。
治療者は面接において、あるいは患者が入院している病棟内などで患者と接し、その様子を観察しますが、その際に自分が与える影響を完全に排除して患者を観察することはできません。
治療者は患者に対して一方的な観察者であるということはなく、存在しているだけでも、患者に何らかの影響を与えていることは間違いないのです。
サリヴァンは、人間の行動を本当に理解するためには、その人を取り巻く人間関係の中で理解していく必要があることを説きました。
関与しながらの観察の関連キーワード
- サリヴァン,H.S.
- 参与観察
- 環境
- 対人関係論
関与しながらの観察の補足ポイント
関与しながらの観察は普段の人間関係においても生じていると言えます。
学校の先生が授業をする時、教師は生徒たちの様子を観察していますが、目の前に先生がいるということで、生徒たちの様子は友達同士で集まっている時や、家にいる時とは異なっているはずです。
逆に、生徒がいることによって、教師もまた影響を受けています。
教師は、お互いの存在がクラス内の人間関係に何らかの影響を与えあっていることを認識し、その関係性を考慮しながら生徒と接することで、彼らのことをよりよく理解することができるでしょう。
サリヴァンの立場は対人関係論、または新フロイト派に属するとされます。
同じ立場の人物には、他にはホーナイ,K.、フロム・ライヒマン,F.、フロム,E.がいます。
患者を取り巻く環境などの社会的要因や生まれ育った文化的要因などを重視することから、文化学派と呼ばれることもあります。
治療者が患者に対して一方的に解釈を与えれば治療が可能ということはなく、治療者と患者とが相互交流していくことが治療においては重要です。
その他の精神分析もこうした視点がないわけではありませんが、対人関係論においてはこうした側面が特に重視されます。