仮現運動の定義
仮現運動とは、動いていないものが動いているように見える現象のことです。
より狭義には、ある対象Aと対象Bを、遅すぎず早すぎない程度の時間間隔を置いて、それぞれ別な場所で交互に呈示すると、対象AとBが動いているように見える現象のことを言います。
心理学において仮現運動という概念が出てきたのは1912年のことでした。
1910年にゲシュタルト心理学者のウェルトハイマー,M.が、仮現運動に関する着想を得て、子ども用のストロボスコープを用いて実験を行ったと言われています。
そしてその後の1912年に、「運動視に関する実験的研究」という論文の中で運動の知覚に関する新しい知見を発表したのです。
仮現運動の関連キーワード
- 見かけ上の運動
- ゲシュタルト心理学
- ベータ運動
- 最適時相
- ファイ現象
仮現運動の補足ポイント
この現象を応用したものの例としては、映画や踏切の警報器が有名で、こうした警報器に見られる運動はベータ運動と呼ばれます。
多くの警報器には上下または左右に信号が付いており、これらが交互に光って通行する人々に注意を喚起しています。
この信号は一見動いているかのように見えますが、実際にはそれぞれの位置で信号が明滅を繰り返しているだけです。
この信号の明滅が動いているように見えるためには、明滅するタイミングが重要となります。
明滅する時間差が約30ミリ秒以下の場合は、2つの信号は同時に点滅しているように見えます(同時時相)。
時間差が約60ミリ秒くらいになると、信号が動いているように見え、このぐらいの間隔が最適時相と呼ばれています。
この時相では自然な動きが知覚されますが、こうした運動知覚が生じることをファイ現象と呼びます。
さらに、時間差が200ミリ秒以上となると、2つの信号は順番に点滅していると知覚されますが、運動が生じているようには見えません(継時時相)。
ちなみに仮現運動は映画の原理ともなりますが、かといってゲシュタルト心理学のおかげで映画が生まれた……というわけではなかったようです。
映画の原型となるシネマトグラフは、1895年にリュミエール兄弟によってゲシュタルト心理学が仮現運動を発見する前に、すでに発明されていました。
また、仮現運動は錯視とともに研究され、アニメーションの発展にも寄与してきました。
どのように画像を呈示すると、キャラクターの動きを効果的に表現できるかを探ったりするために、運動知覚の知見が応用されているようです。
映画やアニメーション以外にも、仮現運動の例を日常生活の中で探してみましょう。
電車の扉の上の方に目を向けると、次の駅名が電光掲示板に表示されているのを見たことがあるかと思います。表示された駅名が横に流れていくように見えるのが仮現運動です。
また、滝が流れるのをずっと見つめてから周りの風景に目を向けると、動いていないはずの木々が上に動いているように見えます。この運動残効と呼ばれる現象も、広義の仮現運動の一種です。