錯聴

錯聴

錯聴の定義

視覚に関する錯覚が錯視ですが、聴覚に関する錯覚のことは錯聴と呼ばれます。
錯聴には音の高さが実際とは違って聞こえたり、連続している音が途中で途切れて聞こえるといったものなどがあります。

私たちが普段耳にしていると感じているものは、耳から取り入れた聴覚情報そのままというわけではなく、脳を通して複雑な処理を経た後の、いわば加工後の情報です。

耳から入ってくる音が取捨選択されることなく、すべて同じ調子で入ってくるとしたら、私たちは落ち着いて休んだり、仕事や遊びに集中していることがとても難しくなってしまうはずです。

そうしたことにならないように、脳の中では複雑な情報処理が行われ、その結果さまざまな条件が重なると錯聴が生じることになります。

錯聴の関連キーワード

  1. 聴覚情報処理
  2. 結合音
  3. 無限音階
  4. ダブルフラッシュ錯覚
  5. マガーク効果

錯聴の補足ポイント

代表的な錯聴の1つに、結合音があります。
これは高さの異なる2つの音を鳴らした時に、その2つの音よりも低い音が混じっているように聞こえるというもので、18世紀のヨーロッパにおいて、タルティーニなどの作曲家によって発見されたと言われています。
結合音の一種とされる差音は、パイプオルガンで低い音を出すために応用されているそうです。

その他に錯聴として有名なものに無限音階というものがありますが、これはアメリカの認知科学者ロジャー・シェパードが発見したので、シェパード・トーンとも呼ばれます。

無限音階という名前の通り、ドレミファソラシドの音階がどこまでも上昇あるいは下降して聞こえる現象で、エッシャーが描いた無限に上り続けることができるように見える階段の絵の聴覚版とも言えます。
ジャン=クロード・リセというフランス人作曲家は、この無限音階を用いて「位相」という管弦楽曲を作っています。

 
また、視覚と聴覚が複合的に影響を与えて生じる錯覚も存在し、例えばダブルフラッシュ錯覚マガーク効果などが知られています。

ダブルフラッシュ錯覚の実験では、音が鳴るのと同時に図形が一瞬表示されますが、A群では音が1回、B群では音が2回なるという違いを設けます。
すると同じ映像を見ていても、A群では図形が1回だけ現れたように見え、B群では2回現れたように見えます。

マガーク効果は、聴覚情報と視覚情報とで食い違う情報を与えると、情報が干渉しあい違った情報として知覚されるという効果を指します。
人が喋っている映像で、音声では「ば」を流し、口の動きは「が」と発音している映像を見せると、その中間の音声である「だ」と言っているように聞こえます。

このような錯聴や錯視を研究することは、脳の情報処理過程を探ることにもつながり、人間の知覚・認知機能の仕組みを明らかにする上で役立つことが示唆されています。

MEMO

コンサートで演奏を聴いている時に、隣の人が大きな咳をすると一瞬音が聞こえなくなることがあります。その場合でも、音楽自体は止まらず流れていると私たちには感じられます。

特に、よく知っている曲の場合は、部分的に聞こえない音があっても、その音があたかも聞こえたかのように感じられることすらあります。
これは、脳が音を補って、音が聞こえたように感じさせてくれているのです。