心的回転の定義
心的回転とは、心の中に思い描いたイメージを回転変換する認知機能のことです。
つまり、物体を回転させるとどのように見えるかを、頭の中で判断する能力です。
心的回転の実験としては、シェパードとメッツラーの実験が有名です。
この実験では、立方体ブロックを3次元的に結合させて作成した物体のペアを被験者に見せて、同じ物体であるかどうかを判断させました。
同じ物体の場合、一方をある角度まで回転させると他方の物体と一致するようになっており、その回転角度をさまざまに変化させ、被験者が判断するまでの反応時間を測定しました。
すると、2つの物体の回転角度の差が大きくなればなるほど、反応時間が増加することがわかったのです。
こうした実験結果は、被験者の心の中に一方の物体イメージが作られ、それを心の中で回転し、他方の物体イメージとうまく一致するかどうか判断している可能性を示すものと考えられています。
心的回転の関連キーワード
- イメージ
- シェパードとメッツラーの実験
- 回転角度
- 反応時間
- 心的走査
心的回転の補足ポイント
人は、現実世界のさまざまな光景を、心の中に絵のように思い描くことができます。
例えば、自分の部屋を思い浮かべるように言われたとしたら、容易にその部屋が心の中に浮かび上がってくるでしょう。
こうした心的な絵がイメージと呼ばれるものです。
イメージを思い浮かべることは誰にでも容易ですが、イメージそのものを、直接、物理的に捉えることは不可能です。
そのため、イメージに関する実験心理学的研究を行うことは困難とされていました。
シェパードとメッツラーの心的回転の研究は、こうしたイメージの特性を実験心理学的に検討したという点で大きな意義を持っています。
さて、イメージの特性についての研究には、心的回転の他にコスリンらの心的走査の実験があります。
この実験では、まず、小屋、木、岩、井戸、湖、砂浜、草が描かれた架空の島の地図を被験者に提示し、記憶させます。
実験者は、被験者に地図上の1つの対象の名前を告げ、地図の絵を心的に描いてもらい、それに焦点を合わせるよう求めます。
その数秒後に、今度は別の対象の名称を告げます。
被験者には、1番目の対象から2番目の対象へと地図上を心的に走査し、その対象に到達して焦点を合わせられたところでボタンを押すよう教示を行います。
この実験結果によれば、心的走査に要する反応時間の値をグラフにしてみると、対象間の距離と走査時間が正比例の関係にあることが示されています。
つまり、走査される距離が大きくなるほど、時間も長くなるということであり、被験者の描いた心的な地図が、実際の地図と同様であるということが示唆されているのです。
心的回転を行っているとき、同時にfMRIという機器を用いて脳の血流状態を調べてみると、脳の頭頂葉や前頭前野などが活発に活動していることがわかります。
脳卒中などによってこれらの脳の部位が損傷を受けると、自分の身体をうまく動かしたり、空間を適切に知覚したりすることが困難になり、心的回転を行うのも難しくなることがわかっています。
脳機能と心的回転の遂行成績とに関連があることから、心的回転課題に取り組むと、認知的なリハビリテーションにつながる可能性があると推定されており、脳損傷後の支援に心的回転課題を応用する手段が研究されています。