欲求の階層説の定義
マズロー,A.H.は、人間の欲求は「生理」「安全」「所属と愛情」「自尊と承認」「自己実現」という5つの階層構造を持っており、前の段階の欲求が充足されて初めて、次の階層の欲求の充足段階へと到達することができると考えました。
これを欲求の階層説または自己実現理論と呼びます。
生理的欲求は、生命維持のための根源的な欲求、つまり、食欲・睡眠欲・性欲といったものを指します。
安全の欲求は、生命維持だけでなく、生命を脅かす可能性のある状況を回避しようとする防衛のための欲求です。
所属と愛情の欲求は、社会的な関係性をもって居場所を確保したいという欲求です。
自尊と承認の欲求は、居場所の確保だけでなく、その場において存在する価値のある人間でありたい、他の構成員からの承認を求めたいといった欲求を指します。
そして最後が、自己実現の欲求です。
これは、自分自身が持っている成長可能性や潜在能力を十分に表現でき、自分らしく創造的に生きていきたいとする欲求です。
欲求の階層説の関連キーワード
- マズロー,A.H.
- 自己実現理論
- 生理的欲求
- 安全の欲求
- 所属と愛情の欲求
- 自尊と承認の欲求
- 自己実現の欲求
欲求の階層説の補足ポイント
生活のあらゆるものを失った状態の人間は、生理的欲求が他のどの欲求よりも最も主要な動機づけとなります。
一般的な動物がこのレベルを超えることはほとんどありませんが、人間にとってこの欲求しか見られないというのは一般的な状況ではないため、通常の健康な人間は即座に次のレベルである安全の欲求が出現するとされています。
ここで、自尊と承認の欲求について少し補足しておきますと、マズローは、尊重には2つのレベルがあると考えました。
低いレベルの尊重欲求は、他者からの尊敬、地位への渇望、名声、利権、注目などを得ることによって満たすことができるものです。
ただし、マズローは、この低い尊重のレベルにとどまり続けることは危険だとしており、より高次の尊重欲求を目指すことが求められています。
高いレベルの尊重欲求は、自己尊重感、技術や能力の習得、自己信頼感、自立性などを得ることで満たされます。
つまり、他人からの評価よりも、自分の自分自身に対する評価が重視されるのが特徴で、この欲求が妨害されると、劣等感や無力感などの感情が生じることとなります。
さて、マズローは晩年、5段階の欲求階層の上にさらにもう1つ上の段階があると発表しました。
それが、「自己超越」(self-transcendence)の段階です。
自己の枠を超えて宇宙の神秘性や社会的使命感といった大いなる存在を求めようとする段階になります。
その概念は人種、性別、思想などを超えて人間や世界を捉えるトランスパーソナル心理学の源流となりました。
自己超越の欲求で鍵となるのが、「利他性」というキーワードです。
つまり、下位段階に見られるような、誰かとつながりたい、他人から認められたいといった利己的な動機ではなく、他者や社会に良い影響を及ぼし、目標に向かってひたむきに努力し行動し続ける領域と言えるのです。
マズローによると、このレベルに達している人はごくわずかであり、子どもでこの段階に達することは不可能であるとされています。
マズローの欲求階層説は企業研修などでもよく取り入れられているので、ご存じの方も多いかもしれません。
第3、第4段階までは他者との関係性を伴う欲求ですが、第5段階の自己実現の欲求では、自己に向けられているのが特徴的です。
つまり、あるべき自分になりたい、理想の自分になりたいと、さらなる成長を求めるのです。