学習の転移

学習の転移

学習の転移の定義

学習心理学における転移とは、前に学習したことがその後の学習に影響を及ぼすことを言います。

臨床心理学(精神分析)においても「転移」(transference)という用語がありますが、これらは異なる概念なので注意しましょう。
臨床心理学の転移は、学習心理学の転移と区別するために「感情転移」と呼ばれることもあります。

学習心理学における転移の例としては、以前サッカーの練習をしたことのある人が、その後フットサルを始めた時に比較的早く上達できるといったことが挙げられます。以前の学習が転移しているため、そうしたことが起きるのです。

学習の転移は、後の学習がはかどるなど良い影響を及ぼすこともありますが、逆に後の学習がうまく行かない方向に影響を及ぼすこともあります。

トランペットを吹いていた経験がトロンボーンの練習に役立つことは正の転移と言い、クラシックバレエを踊っていた経験があることでヒップホップのダンスが上手く踊れないような場合は負の転移と言います。

また、ある作業を片方の手で練習した後、同じことをもう片方の手で練習した際に転移が見られることを、両側性転移と言います。

学習の転移の関連キーワード

  1. 正の転移
  2. 負の転移
  3. 両側性転移
  4. 鏡映描写
  5. 視運動協応

学習の転移の補足ポイント

学習の転移を確かめるものとして、鏡映描写という実験がよく用いられます。
実験で使う用紙には星形のコースが描かれており、被験者はこのコースから外れないように鉛筆でたどっていくという作業を行います。

これは、普通に行う分には特に難しくないような作業ですが、実験では鏡映描写器と呼ばれる専用の道具を使用し、鏡に映った星形のコースを見ながら行うことになります。

鏡に映ったものを見ながら作業する場合、鉛筆を右に動かしたい時は、実際には左に動かさなくてはなりません。
視覚的な情報と、手の運動感覚に関する情報とが一致しないことになり、視運動協応がうまくいかなくなってしまいます。

すなわち、上下左右の感覚が通用しない状況で作業をしなくてはなりません。
このような普段慣れない状況下では、コースから外れないで線を書くにはとても時間がかかります。
これを利き手で作業した後、被験者はもう片方の手でも作業します。

その結果から、利き手での学習が、もう片方の手で作業する際に影響を及ぼすか、つまり両側性転移や学習の転移が生じているかを検証します。

利き手ではない方の手でいきなり作業を行うよりも、まず利き手で作業してから、もう片方の手で作業した方が課題の成績は良いことが多いようです。

多くの場合は、何か作業をする際には類似の作業で練習した経験がある方が、その後の作業がスムーズになると考えられます。

MEMO

学習の転移は、学習課題の内容が似ている場合や、各課題に共通する一般的原理を学び、学習の仕方自体を学ぶことができたときに生じやすいと考えられています。

また、課題を解く際の自分の思考過程や認知プロセス自体を客観的に捉えることができるようになると、新たなことを学ぶ際に、それまでに学習したり経験したりしたことを上手に活かすことができます。

このように自分の認知を認知することをメタ認知といい、メタ認知的活動は学習の転移を促進する要素の1つと考えられています。