トラウマインフォームドケア

トラウマインフォームドケア

トラウマインフォームドケアの定義

トラウマインフォームドケア(TIC)とは、トラウマの影響を理解した上で、その影響を踏まえながら支援やケアを行う基本的な考え方・支援の枠組みです。特定の心理療法や介入技法ではなく、対人援助に関わるすべてのシステムや支援者に求められる普遍的な支援の組織的・実践的姿勢を指します。

事故や災害、虐待、DV、いじめ、性暴力などのトラウマ体験は、その後の感情や認知、行動、対人関係に長期間影響を及ぼすことがあります。そのため、支援者は現在見られているパニックや攻撃性といった表面的な問題だけではなく、その背景にある潜在的なトラウマ体験や置かれた状況を理解する姿勢が求められます。

従来は「何が悪いのか(What’s wrong with you?)」という病理や個人帰属の視点で問題を捉えられることもありましたが、トラウマインフォームドケアでは「あなたに何が起こったのか(What happened to you?)」という環境・体験重視の視点を重視します。

また、支援プロセス自体によって過去のトラウマ体験を思い出させ、再び苦痛を与えてしまう再トラウマ化を防ぎながら、安全で安心できる環境を整え、その人が本来持っているレジリエンスを発揮できるよう支援することを目的としています。

トラウマインフォームドケアの関連キーワード

  1. トラウマ
  2. 再トラウマ化
  3. レジリエンス
  4. 心理的安全性
  5. エンパワメント
  6. 逆境的小児期体験
  7. サイコロジカル・ファーストエイド
  8. 二次被害

トラウマインフォームドケアの補足ポイント

トラウマインフォームドケアは、特定の心理療法ではなく、医療・福祉・教育・司法・児童福祉・災害支援など、あらゆる対人援助場面で活用される支援の基本姿勢です。

トラウマを経験した人には、不安や怒り、回避、過覚醒、人を信頼できないといった反応が見られることがあります。しかし、これらは単なる問題行動ではなく、危険な状況を生き延びるために身につけた適応反応である場合があります。そのため、支援者は行動だけを評価するのではなく、その背景にどのような体験があったのかを理解しようとする姿勢が重要です。

トラウマインフォームドケアでは、安全感の確保を最優先とし、本人の意思や自己決定を尊重します。また、支援内容について十分に説明し、本人が納得した上で自己決定できるよう配慮し、本人と協働しながら支援を進めることが大切です。このような関わりは、心理的安全性を高めるだけでなく、本人のエンパワメントにもつながります。

 
また、幼少期の虐待や家庭内暴力、ネグレクトなどの逆境的小児期体験(ACEs)は、成人後の精神疾患や身体疾患、物質依存症などのリスクを高めることが知られています。そのため、現在の困りごとだけではなく、発達トラウマや生育歴、生活環境も含めて理解することが重要です。

 
災害や事故などの直後には、サイコロジカル・ファーストエイドが実施されることがあります。サイコロジカル・ファーストエイドはトラウマインフォームドケアの考え方と共通する部分が多く、安全の確保や生活上の支援、人とのつながりを回復することを重視します。一方、トラウマインフォームドケアは災害時だけではなく、日常の医療・教育・福祉・司法など幅広い場面で継続的に実践される支援の考え方です。

支援者が威圧的な態度を取ったり、本人の意思を無視して対応したり、本人の準備が整っていない段階で無理にトラウマ体験を語らせたりすると、過去の体験を想起させる再トラウマ化につながる可能性があります。
また、周囲の偏見や心ない言動、不適切な対応によって、新たな精神的苦痛を受ける二次被害が生じることもあります。そのため、トラウマインフォームドケアでは、本人のペースや自己決定を尊重し、安全で安心できる環境を整えながら支援を行うことが重要になります。

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トラウマインフォームドケアの考え方に基づく支援として、最も適切なものを1つ選べ。

① 災害を経験した支援対象者に対し、トラウマを早期に処理するため、できるだけ詳細に体験を語ってもらうよう促した。
② 医療機関の受診を拒否する支援対象者に対し、まず安全を確保し、本人の意思を尊重しながら必要な支援につなげられるよう関わった。
③ 問題行動の原因は本人の性格にあると考え、現在の行動の修正を最優先に支援を進めた。
④ PTSDと診断されたことを確認した後に、初めてトラウマインフォームドケアを開始した。
 

【解答】

本問題では、トラウマインフォームドケアの実践において重視される支援姿勢について問われています。
トラウマインフォームドケアでは、トラウマ体験が現在の心身や行動に影響している可能性を理解し、安全の確保や本人の自己決定、信頼関係を重視しながら支援を行います。また、支援によって苦痛を再び生じさせる再トラウマ化を防ぐことも重要な目的です。
②は正しい記述です。トラウマインフォームドケアでは、安全を確保しながら本人の意思や自己決定を尊重し、必要な支援へつなげることを重視します。支援者が一方的に判断するのではなく、本人と協働して支援を進める姿勢が求められます。
①は誤りです。トラウマ体験を詳細に語らせることを優先する支援は、本人に大きな負担を与え、再トラウマ化につながる可能性があります。体験を無理に語らせることはトラウマインフォームドケアの考え方とは一致しません。
③は誤りです。トラウマインフォームドケアでは、「何が悪いのか」ではなく、「その人に何が起こったのか」という視点から問題を理解することを重視します。
④は誤りです。トラウマインフォームドケアはPTSDの人だけを対象とするものではありません。トラウマを抱えている可能性のあるすべての人を想定した支援の基本姿勢であり、診断の有無にかかわらず実践されます。