グリーフケア

グリーフケア

グリーフケアの定義

グリーフ(悲嘆)とは、自分にとって大切な人やものを失う対象喪失に伴う反応のことです。

対象喪失によって生じるさまざまな感情や反応に翻弄されながらも、グリーフと少しずつ向き合い心を整理していくプロセスを喪の作業といい、こうしたプロセスを心理的に支援する方法をグリーフケア(グリーフセラピー)といいます。

グリーフには悲しい、寂しいといった感情的側面だけではなく、集中困難や物忘れが増えるなどの認知的側面、泣く、思い出の品をずっと身につけるなどの行動的側面、動悸や不眠が生じるなどの生理的側面も含まれます。

大切な対象は記憶の中には生き生きと残っているにもかかわらず、実際には以前と同様には存在しないという落差は、心を引き裂くかのように感じさせます。

 
対象喪失となる体験に当てはまるのは、家族や仲間と離別や死別をするといったことだけではありません。
卒業や離職などによりそれまで適応していた環境や社会的な役割を失う、理想を見失う、尊敬していた人に幻滅する、依存対象や所有物を失う、病気と診断されて自分が健康であるというイメージが崩れるといったことが挙げられます。

対象喪失によりグリーフが生じることはむしろ正常な反応です。
しかし、ずっとグリーフに囚われてしまうのではなく、喪の作業を経て気持ちを整理していくことを通じて、大切な対象が存在しなくなった現実に再び適応できるようになることが大切です。

グリーフケアの関連キーワード

  1. グリーフ(悲嘆)
  2. 対象喪失
  3. 喪の作業
  4. 複雑性悲嘆

グリーフケアの補足ポイント

グリーフによる症状の重さや持続期間が通常想定される範囲よりも過度なものを複雑性悲嘆といいます。

ウォーデン, J. W. は、グリーフに悩む人に対する支援全般のことではなく、複雑性悲嘆を示す人に特化して行う支援のことを、特にグリーフセラピーとよんでいます。

ウォーデンは、グリーフから回復するプロセスを段階モデルで捉え、対象喪失を経験した人が段階ごとの課題に一つひとつ主体的に取り組み乗り越える必要があると考えました。

取り組むべき段階とは、喪失の現実を認める、グリーフの苦痛を経験する、新しい環境へと適応する、心の中で故人を位置づけ直すという4つです。

「あの人が亡くなった」と対象喪失を知的に理解することと、「死んでしまったんだ」と感情を伴って理解することとは別物です。
辛い現実を認めるのは難しいことですが、悲しいことを悲しいと受け止めることが、グリーフを乗り越えるためには必要になります。

喪失を認めればグリーフの苦痛が生じます。
苦痛の程度は人によって異なるとはいえ、苦痛をまったく感じないことはあり得ません。

仕事に没頭したり、思い出の場所から引っ越したりして苦痛を紛らわせることもできますが、どこかで苦痛にしっかりと向き合っていかないと、グリーフが心身の症状として現れる可能性もあります。

少しずつ対象喪失と折り合いを付け、故人が家族や社会の中で担っていた役割を再確認したり、それを補えるように工夫したりすることを通じて、徐々に日常生活を安定させ、遺された人が自分の生活を再び自分でコントロールできるようにしていきます。

そして、遺された人は失った人を忘れるのではなく、心の中にその人を新しく位置づけ直し、現在の日常生活を進めていくことで、グリーフを乗り越えていきます。

グリーフがあまりにも長く続いたり、落ち込んでも不思議ではない状況にもかかわらずグリーフが見られなかったりする場合などは、専門家の力を借りながらゆっくりと対象喪失に向き合っていくことを考えてみてもよいでしょう。

MEMO

精神科医であり精神分析家のボウルビィ, J. は、正常な喪の作業では、失った対象のことを心の中に留めながらも少しずつ距離を置き、心の安定を取り戻していく過程を辿るものだと考えました。

そして、喪の作業がうまく行かないと、生き残った罪悪感から深刻なうつ病などが発生する可能性があるとも述べました。