緩和ケア・終末期ケア

緩和ケア・終末期ケア

緩和ケア・終末期ケアの定義

がんなどの重篤な疾患が判明すると、本人もその家族も大きなショックを受けます。
この病気は治療可能なのか、どのような症状が現れるのか、家族や仕事のことを含めて将来はどうなるのかと、さまざまなことが不安に感じられるものです。

疾患そのものの症状に加えて、心理的な負担を強く感じる状態が続くと、生活の質(QOL)が低下してしまうため、重篤な疾患が判明した場合は、早期から緩和ケアを行うことが重要だと考えられています。

世界保健機関(WHO)の2002年の定義を参照すると、緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、疾患の早期より痛み、その他の倦怠感や息苦しさなどの身体的問題、不安や経済面の負担などの心理社会的問題、死と対峙して自分の存在価値を否定的に捉えるなどのスピリチュアルな問題に関してきちんとした評価を行い、それが障害とならないように予防や対処をすることで、QOLを改善させるためのアプローチです。

WHOは1990年には緩和ケアについて、治癒を目指した治療が有効ではなくなった患者に対するアプローチと定義し、終末期ケアを念頭に置いていましたが、必要なケアは終末期に限らず早期から提供されるべきという考えから、緩和ケアの定義を上記のように改訂しました。

 
2006年に制定されたがん対策基本法には、緩和ケアという言葉が明記され、がんの診断の時から緩和ケアが適切に提供されるようにすることと定められました。

そうした背景もあって、緩和ケアは主にがん患者に対するアプローチとして発展してきましたが、がん以外の疾患に対するケアの拡充も今後の重要な課題と認識されています。

近年では、疾患に対する標準的な治療だけではなく、緩和ケアを早期に並行して行うことで、QOLを向上し、抑うつ気分などを改善できることがわかっています。

緩和ケア・終末期ケアの関連キーワード

  1. 生活の質(QOL)
  2. 身体的問題
  3. 心理社会的問題
  4. スピリチュアルな問題
  5. チーム医療
  6. リビングウィル
  7. アドバンス・ケア・プランニング

緩和ケア・終末期ケアの補足ポイント

抑うつや不安などの精神症状に対するケアとしては、疾患そのものと、それに対する治療・支援に関する理解を高めるための心理教育や、支持的精神療法が挙げられます。

疾患や症状について理解することは、今後予測される望ましくない事態を知ることにもなる一方、この先どのような症状が出てくるのかがわからないという漠然とした不安を和らげることにもつながります。

その過程においては、なぜ自分がこんな目に遭うのかといった悲しみや怒りが湧き上がることもあるでしょう。

家族が困るから落ち込んだ姿は見せないようにするという人もいますが、そうした感情をずっと一人で抱えていくのは苦しいものです。
否定的な感情を常に抑え込むのではなく、ときには表出しながら整理していくことが望まれます。

 
緩和ケア・終末期ケアにおいては、専門性の異なる多職種が連携してチーム医療を提供することが欠かせません。
地域がん診療連携拠点病院においては、心理職を緩和ケアチームに配置することが望ましいとされています。
がん患者に対しては、医師が医学的治療を行い、心理職は心理的な問題に寄り添い、医療・福祉サービスなどについてはソーシャルワーカーがその相談に乗ります。

 
終末期ケアにおいて、約70%の患者が意思決定できない状態になるという調査結果があります。
終末期が来たときに自分がどのように生き、死を迎えるか、延命措置はどうしたいかといったことについて、本人があらかじめ意思を明示することをリビングウィル(生前の意思表明)といいます。

 
また、患者が意思決定できなくなったときに備えて、患者とその家族、医療職などが事前に話し合うことはアドバンス・ケア・プランニング(人生会議)と呼ばれます。
ここには、本人が意思決定できなくなったときに、代わりに意思決定をする人を決めておくことも含まれます。

一度決めたことであっても気持ちが変わった場合は内容を変更して、できる限り本人の希望に沿い、患者自身の意思や尊厳を尊重した医療・ケアを提供できるように進めることが重要です。

MEMO

リビングウィルなどを通じて、本人が終末期にどのようにしてほしいかを事前指示書などに記載したとしても、日本ではまだ法的な拘束力はありません。

ですが、早期から終末期のことを考えておくことは、本人が自分の意思について改めて整理することができ、周囲の人も本人の意思を尊重したサポートを行いやすくなるという利点があります。