野生児研究

野生児研究

野生児研究の定義

野生児研究とは、人間的な環境から切り離された状態で育った子ども野生児が、人間らしい環境下に戻された後に、どのように人間性を獲得するのか、あるいはどのような点で人間性を獲得できないのかについて研究したものです。

有名な野生児研究には、「狼少女アマラとカマラの研究」「アヴェロンの野生児の研究」があります。

これらの研究によれば、言語や情動の発達においては、乳幼児期の人間らしい環境が不可欠であるとされており、人間の言葉の発達や情緒の発達における臨界期の存在や、初期学習の重要性が示唆されています。

人間らしい環境の剥奪が、その後の発達における不適応や問題行動、あるいは精神障害など、人間性からの逸脱や異常を生み出すというのです。

 
ただし、人間性と野生の2項対立図式について、「人間性-正常」「野生-異常」と捉える点で、現代哲学の観点からは偏向として批判がなされています。

また、野生児研究については、多くの研究者がさまざまな嘘や矛盾点を指摘しており、現在は概ね否定的な見解がなされています。

野生児研究の関連キーワード

  1. 人間性
  2. 狼少女アマラとカマラ
  3. アヴェロンの野生児
  4. 臨界期
  5. 初期学習

野生児研究の補足ポイント

野生児研究の歴史の中で特に有名なのが、フランスの医師イタールによって報告された「アヴェロンの野生児」の研究です。

南フランスのアヴェロンの森で発見された推定年齢11~12歳の少年は、言語を持たず人間らしい感覚・感情も持っておらずアヴェロンの野生児と呼ばれました。

イタールは、約6年間の再教育・養育行動をアヴェロンの野生児に対して行い、日常生活の基本行動や感覚・感情の感受性に対しては改善が見られたものの、言語能力や知的能力を習得することは無かったという報告をしました。

 
こうした研究結果から、イタールは、発達早期における初期学習の重要性を指摘しています。

乳幼児期に適切な言語刺激や愛情表現を受けて社会的な経験をすることができなければ、事後的に言語を習得したり、正常な知的発達を成し遂げることは極めて困難だという結論に行き着いたのです。

ただし、研究された野生児に先天的な知的障害があった可能性は否定できないことから、初期学習についての見解は実際のところ、はっきりとしないところです。

 
上記にあるように、野生児研究には矛盾点などが見られ、その信憑性について疑問の残るものが数多くあります。

しかし、野生児研究の意義として、極端な社会的・文化的隔離の影響を調べることができ、また、人間の正常な知的発達や身体発育、対人関係の形成、社会適応力の獲得に必要な環境条件を明らかにできるといった点が考えられます。

発達早期の初期学習の効果と限界を確認するという意義もあります。
倫理的に実施することができない隔離実験の結果を「人為の関与しない自然実験」として知ることができるのです。

ホスピタリズム(施設症候群)やマターナル・デプリベーション(母性剥奪)の研究とも関係しており、野生児の性格形成や行動様式、精神状態を調べることによって、両親の養育行動・愛情表現・家庭的な守られている環境が、子どもの発達にどのような影響をもたらしているかを知ることができるとされています

MEMO

ヒトが生まれてから数年間の経験全般のことを初期経験と言い、この経験はヒトのその後の発達に大きな影響を与えます。

初期経験を通じて、子どもは周囲の親や大人からさまざまなことを学びます。
その中には、生きていく上で利用できる、環境における資源についての情報を知ることが含まれます。
非受容的な家庭など、あまりサポートが期待できない養育環境で育つと、子どもは早く自立しようと早熟になり、性成熟も早くなると言われています。