心の理論

心の理論

心の理論の定義

心の理論とは、他者の信念や心の状態を推測し、理解する能力のことです。
他者は自分とは違う考え方やものの見方をする可能性があることを理解できている人は、心の理論を持っているというように考えます。

心は直接観察できるものではないため、他者の考えや行動の理由を知るためには、その人に尋ねるか、または推測する必要があります。

他者の心を推測する際には、「人はこういうときは、こう行動するだろう」といった、心の働きと行動との関連性についての仮説的な枠組みを持っていることが役立ちます。

プレマック, D.とウッドラフ, G.は、上述のような他者の心に関する理解のことを心の理論と呼びました。

 
心の理論を測定するものとして誤信念課題というものがあります。
こうした課題を用いた研究によると、子どもが他者の信念をある程度推測できるようになるのは、4歳以降であると言われています。

心の理論研究に用いられる誤信念課題は、1980年代に作成されたマクシの課題が最初のものになります。
その後、サリー・アン課題などが開発されており、これらの課題は標準誤信念課題、または第一次誤信念課題と呼ばれます。

心の理論の関連キーワード

  1. 信念
  2. 標準誤信念課題(第一次誤信念課題)
  3. 第二次誤信念課題
  4. 自閉症スペクトラム障害

心の理論の補足ポイント

上述のマクシの課題は、下記のような内容になっています。

マクシとお母さんは買い物袋を整理し、チョコレートを緑の棚に入れました。
そしてマクシは外に遊びに行きました。
その後、お母さんはチョコレートを緑の棚から青の棚に入れ直します。
お母さんは再び買い物に出かけ、マクシは外から帰ってきました。

さて、マクシはチョコレートがどこにあると思っているでしょう?

正解は緑の棚ですが、4歳未満の子どものほとんどはこの課題に正答できず、4歳から7歳頃にかけて正答率が上昇していきます。

ただし、4歳未満であっても誤信念を理解できる場合があります。
非言語版の誤信念課題を用いた研究において、生後15ヶ月の子どもは、予測と異なる事態を目にしたときに注視時間が長くなるという結果が得られました。
このことは、15ヶ月児でも、少なくとも潜在的な形での心の理論を持っている可能性があることを示唆しています。

マクシの課題のような「Aさんはこう思っている」ことの理解を問う標準誤信念課題に対して、「Aさんは、Bさんがこう思っていると思っている」ことの理解を問う課題は、第二次誤信念課題と呼ばれます。

第二次誤信念課題は、入れ子構造になっているため難易度が高く、6歳から9歳ごろにかけて正答できるようになっていくと言われています。

 
自閉症スペクトラム障害を持つ子どもの場合、そうではない子どもと比べて、誤信念課題に正答できる年齢が遅れる傾向にあります。
そのため、自閉症スペクトラム障害の症状の背景には、心の理論の障害があるのではないかという説が考えられています。

心の理論の障害があると、社会性やコミュニケーションの問題が生じやすくなります。
具体的には、他者が今怒っている、喜んでいるといった感情に気づいたり、言外の意図を汲み取ったりすることに失敗しやすくなります。

自閉症スペクトラム障害以外に、聴覚障害がある子どもは心の理論の理解が遅れる傾向があるとも言われています。
子どもに聴覚障害がある場合でも、家庭で手話によるコミュニケーションを日常的に行っていると、心の理論の発達があまり遅れないという研究結果も見られます。

心の理論は、発達初期に周りの人たちとさまざまなやりとりを行い、子どもがコミュニケーションの方法を学んでいく中で発達すると考えられています。
一人ひとりの子どもに適したコミュニケーションスタイルで関わることが、子どもの社会性を育む上で重要だということが示唆されています。

MEMO

他者の心的状態を推論する行為や過程について、マインドリーディングという言葉も用いられます。
心の理論は、発達心理学の研究で用いられることが多い用語であるのに対して、マインドリーディングは社会心理学の研究で用いられることが多い用語です。

人が他者の心的状態を推論する際、その時の状況、相手の行動や表情などを推論の根拠として用いますが、そこにステレオタイプが入り込むこともあります。

その他の推論方略としては、自分自身が他者の状況に置かれたらどう感じるかを類推することで、他者の心的状態をシミュレーションすることが挙げられます。
ただし、他者の置かれた状況を適切に考慮しないと、こうしたシミュレーション方略では見当違いの判断をしてしまうこともあるので注意が必要です。