生態学的システム論

生態学的システム論の定義

生態学的システム論とは、ロシアに生まれ、アメリカで活躍した発達心理学者のブロンフェンブレンナー,U.が提唱した理論のことです。

個人と、その個人を取り巻く環境との相互作用を通じて、人間は発達していくという考えを示した理論です。
人は環境に影響を与えると同時に、環境から影響を受けながら生活し、成長します。人が持つ関係性はなにごとも一方通行ではなく、自分もその周囲もお互いに影響を及ぼし合っているという考えを特に重視しています。

 
ブロンフェンブレンナーは、人を取り巻く環境をマイクロシステム、メゾシステム、エクソシステム、マクロシステムの4種類に分類しました。
後に追加されたクロノシステムについては後述します。

この4つのシステムは、ロシア人形のマトリョーシカのような入れ子構造になっていると考えられています。

 
生態学的システム論

 
マイクロシステムは、4つのシステムの中で一番内側にあるシステムです。
自分と親(家庭)、自分と学校など、自分と直接的に関わる対象や場所との相互関係を指します。

メゾシステムは、自分が直接関わる複数のシステム同士の相互関係を指します。
例えば、自分の親と担任の先生(それぞれ自分にとってはマイクロシステムの関係)との相互関係などです。

エクソシステムは、自分とは直接関連していないものの、他の人を介して自分やその周囲(マイクロシステムやメゾシステム)に影響を与える相互関係です。
例えば親の会社が挙げられます。父親の会社が忙しくなって帰りが遅くなり、夜一緒に遊べなくなる、授業参観に来てくれなくなるなどして、自分の行動に影響が出ることがあります。

マクロシステムは、ここまでに紹介した3つのシステムの背景にある決まりごとなどのことです。
子どもである自分は小学校に行き、両親は家事や仕事の合間を縫って保護者会に参加し、担任の先生は毎日授業を行うといった行動様式は、日本の学校文化や義務教育制度があって成立しており、自分の生活に影響を及ぼしているものです。

生態学的システム論の関連キーワード

  1. マイクロシステム
  2. メゾシステム
  3. エクソシステム
  4. マクロシステム
  5. クロノシステム

生態学的システム論の補足ポイント

ブロンフェンブレンナーは生態学的システム論の研究を続け、後に上記の4つのシステムに5つ目のシステムであるクロノシステムを追加しました。

クロノシステムとは、時間経過の中で個人に影響を及ぼす出来事や環境変化を含むものです。時間という視点を追加したのが画期的な点です。
これには、進学や転居、親の離婚などが該当し、近年のコロナウイルス感染症をめぐる生活様式の変化など、歴史的な出来事も含まれます。

 
成長に伴って関わるシステムが広がっていくことは避けられませんし、自分の力では変えられないことも沢山あります。
それだけに、自分が周りの環境とどうつきあっていくと、もっと過ごしやすくなるかという視点で考えることは大切なことです。

ブロンフェンブレンナーは、従来の発達心理学の研究法だけでは、生活環境の真っただ中で環境と相互作用しながら発達する子どもの姿を捉え切ることはできないと感じていたようです。
生態学的システム論は、そうした問題提起に基づいて、環境の中で生きる子どもの姿をもっと適確に捉えたいという考えから生まれました。

MEMO

ブロンフェンブレンナーはさらに研究を続け、生態学的システム論は子どもだけではなく大人にも当てはまるものという考えを深めていきます。その過程で、生物生態学的モデル(bioecological model)という、遺伝学などの知見も含めた新たな発達モデルを発表しました。

生態学的システム論自体も、心理学のみならずさまざまな分野と相互作用しながら、環境の中で大きな発展を続けています。