ピアジェの認知発達理論の定義
認知とは、外界を認識したり、何かを記憶・思考したりするといった情報処理の過程を指します。
人は認知という能力を通じて環境を認識し、環境に働きかけながら生活しています。
認知の発達とは、環境と関わることで自分自身や周囲がどのように変化するのかという仕組みを理解することとも言えます。
認知発達に関する代表的な理論が、ピアジェ, J.の認知発達理論です。
ピアジェは、認知発達を感覚運動期、前操作期、具体的操作期、形式的操作期の4つの発達段階に分けました。
また、環境についての情報を自分の中に取り込む同化、環境に合わせて自分を変化させる調節、その両者をバランスよく行う均衡化といった概念などを提唱し、認知発達の過程を説明しています。
各発達段階にはおおよその年齢が設定されています。
発達段階ごとに設定されている発達課題の達成は、子どもによって多少前後することもありますが、誰であっても発達段階の順番は変わらず一定です。
発達段階はそれぞれ特徴を持っていて、1つの段階の中でも未熟な状態からその段階における完成状態まで少しずつ発達します。
そして、前の段階で見られた発達の萌芽が、その次の段階ではっきりと現れて発達すると考えられています。
感覚運動期は0~2歳頃の発達段階で、自らの感覚や運動、その両者の協応を通じて環境を認識します。
生後3ヶ月頃までの乳児の反応は反射や指しゃぶりなどが中心で、環境に意識的に働きかけることはほぼありませんが、3ヶ月頃になると環境との相互作用を意識するようになります。
例えば、玩具を振れば音が鳴ることに気づくと、その子はしきりに玩具を振って、自分が働きかけることで環境がどう変化するかを試すようになっていきます。
このように玩具を何度も振るといった、同じことを繰り返すことを循環反応といいます。
また、一般的には1歳を過ぎる頃から、目の前のものが見えなくなってもその対象が存在し続けるという概念、つまり、対象物の永続性を理解できるようになります。
前操作期は2~6歳頃で、この段階では子どもは象徴的な思考ができるようになりますが、まだ主観的な面が強く、論理的な思考は十分にはできません。
そして、他者には他者の視点が存在することを理解できないため、周囲にいる他の人も自分と同じように環境を認識すると考える自己中心性があります。
対象の見かけが変わっても、対象の数量は変化しないという保存性はまだ理解できないことや、生物以外のものが意識を持つと考えるアニミズムがあることが、この段階の特徴です。
具体的操作期は6~12歳頃で、論理的な思考や操作が可能になるものの、抽象的な内容になると十分には理解できないことがあります。
また、この段階になると保存性を理解できるようになります。
といっても、ある時急にすべてを理解できるわけではなく、数の保存性はわかるようになっても、面積の保存性になるとわからないといったズレがある状態が最初は見られます。そして、徐々にさまざまな概念についての保存性の理解が進んでいきます。
この段階では徐々に自己中心的な認知から脱していきます。
脱中心化すると、他者には他者の視点があり、他の人は自分と違う物の見方をすることがあると理解します。また、他者の視点からはどのような見え方になるのかを推測することができるようになります。
形式的操作期は12歳以降で、具体的な事象だけではなく抽象的な事象も考えることができるようになり、論理的な思考ができるようになります。
そのため、事実に反することや、可能性の問題について論じたり、仮説検証的な推理をしたりできるようになっていきます。
ピアジェの認知発達理論の関連キーワード
- 感覚運動期
- 前操作期
- 具体的操作期
- 形式的操作期
- 内言と外言
- 発達の最近接領域
ピアジェの認知発達理論の補足ポイント
体系的に確立された認知発達理論としてはピアジェの理論が最も有名ですが、認知発達について他にも多くの人たちが研究を行っています。
ヴィゴツキー, L. S.は、認知の中でも言語の発達を中心とした理論を提唱し、生まれてから7~8歳ぐらいまでの言語発達を4段階に分けて考えました。
その中で、内言と外言の発達についても言及しています。
はじめのうち、子どもは他者に意思を伝えるための言語である外言を用いますが、成長に伴って内面化された思考を行うための言語である内言を使うようになっていきます。
ヴィゴツキーの発達理論では、7歳以降の第4段階において内言を用いて問題解決をするための思考を行うことができるようになると考えられています。
また、ヴィゴツキーの理論の中で最も重要なキーワードの1つに発達の最近接領域があります。
生まれたばかりの子どもは自分一人でできることはほとんどありませんが、他者の助けを借りて何かを達成することを繰り返していくうちに、自分だけでできることが少しずつ増えていきます。
ある課題に関して、子どもが自力で解決できる発達水準と、他者からの援助や協力があれば達成できる水準に分けたとき、この2つの水準間の隔たりを発達の最近接領域とよびます。
発達の最近接領域に働きかけることで、その子どもの発達水準にあわせた適切な教育目標を設定できると考えられます。
ピアジェやヴィゴツキーより後の世代で活躍したブルーナー, J. S. は、二者が同一の対象に対して注意を向ける共同注意や、知識獲得の方法・過程に関する発見学習などを提唱し、子どもの認知発達の研究に貢献しました。
また、ピアジェの流れを汲むフレイヴル, J. H.や、ヴィゴツキーの流れを汲むブラウン, A.L.といった研究者たちは、それぞれの依って立つ理論をもとにメタ認知という概念について考察しています。
ピアジェやヴィゴツキーの理論そのものも人の認知発達の理解に大いに貢献しましたが、後の世代の研究者たちが先人たちの理論を批判的に検討して新たな理論を生み出す下地も提供したわけです。