閾の定義
知覚心理学における閾とは、物理的な刺激に対して感覚として知覚できる、ぎりぎりの境界のことで、その閾に対応した値を閾値と言います。
閾値には、大きく分けて刺激閾と弁別閾があります。
1つの刺激量に対し、感覚量として知覚できる刺激の最少量のことを刺激閾(絶対閾)といいます。
感覚を生じさせる刺激値の境界は明瞭ではなく、刺激強度が徐々に増すことにより感覚が生じる確率も徐々に増加していきます。
刺激閾とは、具体的には、刺激の存在を50パーセントの確立で検出できるときの刺激の強さを指します。
また、2つの刺激の間で、その刺激量の違いを感覚量として知覚できる最小差を弁別閾と言います。
これは、精神物理学において「丁度可知差異」とも呼ばれます。
ウェーバーによれば、
「弁別閾の値は、標準刺激の強度に比例し、その比はほぼ一定の値をとる」
とされています。
これはウェーバーの法則と呼ばれ、一定の値をとるその比率は「ウェーバー比率」と呼ばれます。
閾の関連キーワード
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- 刺激閾(絶対閾)
- 弁別閾(丁度可知差異)
- ウェーバーの法則
- 閾下知覚
閾の補足ポイント
人間は知覚することができる範囲が決まっています。
しかし、その範囲外で示されたものについても、意識上では知覚されにくいものの、無意識の水準で何らかの影響を与えることがあります。
このような知覚を閾下知覚といい、それらが与える無意識的影響を閾下効果(サブリミナル効果)と言います。
1950年代、アメリカでその実験が行われました。
当時、映画館で上映されていた映画のフィルムの中に、人間が知覚できるかできないかギリギリのほんの短い間、「ポップコーン」という文字を一瞬だけ挿入したのです。
その結果、売店でのポップコーンの売り上げが明らかに上がりました。
この実験により、人間が知覚できる範囲以下の刺激である「弁別下刺激(閾下刺激)」が、潜在意識を通して人間の行動を左右する事が示され、当時、センセーショナルな話題となりました。
通常は、与えられたメッセージが妥当なものであるかが吟味され、本人が納得した上で受容されます。
しかし、意識できないところで情報操作をされた場合に、無意識に自分の行動がコントロールされる可能性がサブリミナル実験により示され、とても恐ろしい事として問題となったのです。
ただし、その後の実験において、閾下知覚には、思想や行動を変化させるほどの強力な効果はないということが示され、現在、この実験結果については否定されています。
閾の測定法は、フェヒナー, G. T.らが提唱した精神物理学の研究において確立されました。
精神物理学は、感覚や知覚を定量的に測定して、物理的刺激と感覚的変化を定式化する学問であり、その測定にあたって閾という概念が重要な役割を果たしています。
ウェーバー, E. H. が見出した、弁別閾はもとの刺激の強さに直線的に比例するという上述の法則は、その弟子のフェヒナーによってウェーバーの法則として定式化されました。
その後、ウェーバーの法則をもとに、刺激の物理量とそれにより引き起こされる感覚量の関係を記述したフェヒナーの法則が、フェヒナー自身によって導き出されました。