ベック, A.T.について
ベック, A.T.は、認知療法を創始したアメリカの精神科医です。
主としてペンシルベニア大学で教鞭を取り、臨床と研究に携わりました。
また、彼はこれまでに600本以上の論文と、共著を含めると25冊以上の著書を刊行しており、アメリカ精神医学を形作った人物、最も影響力のある5大心理療法家の一人などと評価されています。
ベックは最初は神経学を専攻していましたが、レジデントとして精神科臨床に携わるうちに精神分析に傾倒していきました。
その後、エリス.A.の論理療法にも影響を受け、さらに臨床知見を積み重ねていきます。
そしてベックは多くのうつ病患者を診ていく中で、うつ病患者には特有の認知のあり方があることに気づきました。
うつ病のクライエントは、非適応的なものの見方や考え方をしがちであり、認知の歪みが見られることが多いと考えられます。
しかし、クライエント自身はそうした認知が非適応的であるとは気づいていないことも多いものです。
ベックは、こうした認知の歪みを修正していくことが精神疾患の治療につながると考え、認知療法を提唱しました。
ベックは結果的に精神分析から離れましたが、精神分析を必ずしも否定しているわけではなく、認知療法は精神分析の発展形と考えていたようです。
ベック, A.T.の関連キーワード
- 認知療法
- うつ病
- 非適応的な認知
- ベック抑うつ尺度(BDI)
ベック, A.T.の補足ポイント
最近では、自分で取り組むことのできる認知療法のワークブックも出版されており、心のケアをする方法として広く知られるようになってきています。
厚生労働省のうつ病対策の中でも認知療法・認知行動療法が取り上げられていますし、企業などのメンタルヘルス研修でも認知療法の理論や技法が紹介されることもあります。
現在ではベックは、娘のベック, J.と共に設立したベック認知行動療法研究所の名誉所長を務めています。
この研究所では、クライエントに認知療法を受ける機会を提供するだけではなく、認知療法の専門家を育てるトレーニングの役割も担っています。
認知療法は、行動療法の知見も取り入れて認知行動療法として発展し、実証的なデータも示しやすい心理療法として大きく期待されている治療法です。
ベックは、ベック抑うつ尺度(BDI)という質問紙も作成しています。
認知療法ではこうした質問紙を用いて、うつ病の改善度を客観的に捉える工夫が行われています。