エビデンスベイスト・アプローチ

エビデンスベイスト・アプローチ

エビデンスベイスト・アプローチの定義

心理療法には精神分析療法、認知行動療法、クライエント中心療法など、さまざまな種類がありますが、その中でも実証的なデータや根拠、すなわちエビデンスがあることが客観的に示されている支援法を用いるのが望ましいとされています。
エビデンスに基づいて行う臨床実践のことをエビデンスベイスト・アプローチといいます。

 
クライエントへの支援法を選ぶ際には、以下の3つの要素を考慮しながら選択すべきとされています。
1つ目は実施しようとしている支援法の有効性に関するエビデンスがあること、2つ目はその支援法にセラピストが習熟していること、3つ目はその支援法がクライエントの価値観や特性に合っていることです。

たとえセラピストが習熟し、効果があると信じている手法でも、エビデンスが乏しい手法を用いることは望ましくなく、またエビデンスがあるとしてもクライエントが望まない手法を無理強いすることは避けるべきです。

心理療法を開始することになったとしたら、クライエントは、心理療法ではどのようなことが行われるのか、心理療法は本当に有効なのだろうかと、さまざまな不安を抱きやすいものです。

エビデンスに基づいて援助することは有益な結果に結びつきやすいだけではなく、なぜその方法を用いるのかという説明責任(アカウンタビリティ)を果たすことにもつながり、クライエントに安心材料を提供することもできると言えるでしょう。

エビデンスベイスト・アプローチの関連キーワード

  1. エビデンス
  2. 説明責任(アカウンタビリティ)
  3. 無作為化比較試験(RCT)
  4. メタ分析
  5. 科学者-実践家モデル
  6. ナラティブベイスト・アプローチ

エビデンスベイスト・アプローチの補足ポイント

そもそもどのような要件を満たせばエビデンスの質や信頼性が高いと言えるのかについては、研究分野ごとのガイドラインに示されています。

心理学や医学の多くのガイドラインにおいては、複数の無作為化比較試験(RCT)の結果を統合的に解析したメタ分析で効果が示されたものが最も質が高いとされています。
次いで質の高い順に、1つ以上のRCT、非無作為化比較試験、コホート研究や症例対照研究、事例研究を通したものと続きます。

そして、患者データに基づかない専門家個人の意見は最も低いとされており、どれだけ経験豊富なセラピストが推奨する手法だとしても、科学的な根拠を示すことができなければ、エビデンスの質が高いとは見なされないということです。

エビデンスベイスト・アプローチ

 
エビデンスに基づくアプローチを選択するにあたって、セラピストには臨床経験のみならず臨床心理学的研究に関する深い知識が求められます。
実践と研究を両立し、統合的な臨床活動を行う科学者-実践家モデルが、心理職やその教育における目標として掲げられています。

 
エビデンスベイスト・アプローチの他にも臨床実践の方法として、ナラティブベイスト・アプローチがあります。
この2つは、対立する概念と誤って捉えられることがありますが、ナラティブベイスト・アプローチはエビデンスベイスト・アプローチの3要素のうち、クライエントの価値観を理解することに重点を置いたアプローチだと言えます。
話し手であるクライエントと聞き手であるセラピストが対話を通じて共に紡ぎ出す物語であるナラティブを、治療過程に取り入れる手法です。

クライエントが悩みを語るとき、客観的に物事を見ることができずに、ある1つの出来事や感情にこだわってしまうことがあります。
仮に、その考え方は合理的ではないとセラピストが見立てを伝えたとしても、クライエントとしては納得ができないことも多いものです。
そのような場合は、クライエントの物語を聴きながら、共に新しい物語を再構成していくことで、クライエントも納得しやすい適応的な道筋が見つかることがあります。

ナラティブベイスト・アプローチはクライエントの個別性を重視し、エビデンスベイスト・アプローチと互いに補完し合うアプローチであり、どちらのアプローチが優れているといったものではありません。
クライエントに対するアセスメントに基づき、最適なアプローチを選択することが重要です。

MEMO

アメリカ心理学会は、エビデンスベイスト・アプローチの考えに基づき、エビデンスに基づく心理学的実践(EBBP)のガイドラインを公表しています。
この中で、心理学的介入を行うにあたってはエビデンスを重視すべきであるが、そこに固執せずに各クライエントにとって最も適切な介入方法を選択すべきであると述べられています。

セラピストは、エビデンスの質が高い心理療法が何かを知っているだけではなく、目の前のクライエントのことを包括的に理解し、適切な介入を提案する力も身につけておくべきでしょう。