質問紙法の定義
被検者の考え方や行動、態度の傾向、特徴などを把握するために実施される心理検査のことをパーソナリティ検査法といい、質問紙法、作業検査法、そして投映法が含まれます。
質問紙法は、検査実施者が被検者に質問しながら記入したり、親・教師などの周囲の人が被検者について回答したりする形式のものもありますが、被検者が質問項目を読んで自らの心的状態などについて回答していく自己記入式の検査が多いです。
自己記入式の質問紙法では、被検者自身が意識できる側面についての特徴を把握しやすいと言われています。
投映法と比べると、被検者の無意識的な部分を把握することには適していませんが、被検者の意識的な部分を把握しやすい、集団実施して集計結果を統計的に分析することがしやすいといった特徴があります。
被検者自身が質問項目を読み、その内容を理解して答える必要がありますが、作業検査法よりも被検者のさまざまな側面について知ることができます。
質問紙法の長所をもう少し詳しく見ていきましょう。
質問紙法の多くは集団実施できるため、一度に多数の量的データを収集することができます。そのようにして入手した複数の被検者に関するデータを比較検討したり、統計解析したりすることができます。
質問紙法は複雑な手順で実施したり、解釈に特別の訓練が必要であったりすることはあまりなく、検査法の中では比較的実施しやすいと言えるでしょう。
また、集計した得点を基にいくつかの類型に分類してパーソナリティ傾向を把握できる検査や、得点が一定の数値を超えたら疾患の可能性を疑うカットオフポイントが設定されている検査もあります。
そのような質問紙法の多くは、準拠している一定の解釈仮説に従って結果を解釈できるため、検査者が変わったとしてもある程度安定した解釈を行うことができます。
当然、解釈者の間で意見が異なることも少なくなります。
短所としては、被検者が自分で質問を読み、その内容に基づいて回答するので、その人自身が自覚している側面以外を把握するのが難しいことが挙げられます。
そして、質問項目の意味を理解するだけの言語能力が求められるので、幼い子どもや認知機能に困難を抱える被検者には実施できないものもあります。
また、社会的望ましさを気にして本心と異なる回答をしたり、自分の状態を正直に答えてくれなかったりすると、被検者の本当の特徴を把握できなくなる可能性が高まります。
質問紙法の関連キーワード
- パーソナリティ検査法
- 集団実施
- 量的データ
- カットオフポイント
- 社会的望ましさ
- 信頼性・妥当性
質問紙法の補足ポイント
代表的な質問紙法の検査としては、矢田部ギルフォード性格検査(YG)、ミネソタ多面的人格目録(MMPI)、東大式エゴグラム(TEG)などがあります。
YGは、パーソナリティに関する12個の特性と5個の類型を統合してパーソナリティを把握する検査です。
120問と適度な問題数でパーソナリティのさまざまな側面を把握できるため、企業の採用試験の一環として行われることもあります。
MMPIは10個の臨床尺度と4つの妥当性尺度で構成される検査です。
550問と被検者の負担が大きいものの、世界的に使用頻度が高く、精神病理的な側面も把握することができると言われています。
TEGは交流分析理論に基づき、5個の自我状態からパーソナリティを把握する検査です。
53問と実施しやすく、パーソナリティが類型として示されるため、被検者自身も結果を直感的に理解しやすい検査です。
質問紙法によって集計した量的データは統計解析を行うことができるため、投映法に比べて信頼性・妥当性が高く、より客観的な解釈を行いやすいと言われています。
しかし、被検者一人ひとりの個性を深く把握するという意味では、投映法の方が優れている面もあります。
したがって、検査の特徴と被検者について把握すべき情報をよく理解して、必要であればいくつかの心理検査を組み合わせて実施することが重要です。
人のパーソナリティを理解する方法としては、こうした検査法の他には観察法や面接法などがあります。
しかし、観察したり話したりするだけでは対象者の心の内面でどのようなことが生じているのか、どのような感情が生じたのかが把握しづらいこともあり、そうした際に検査法を併用すると対象者のことをより多面的に把握できる可能性が高まります。
なお、質問紙法で得られた回答内容について、その後に面接で詳しく質問をするということもできるので、検査法と面接法を併用することで、より深く被検者のことを理解できる場合もあります。
ただし、抑うつ尺度などを定期的に実施して得点の変化を見ようとしている場合などは、面接で質問することがその後の検査結果に影響を及ぼす可能性があるので、検査項目について深く話を聞くといったことは避けた方がよいかもしれません。
質問紙法は、質問文を読んで理解し、自ら回答することが困難や抵抗なくできる被検者にとっては、比較的少ない負担で取り組むことができる検査です。
しかし、中にはMMPIのように非常に多くの質問項目で構成される検査もあり、そうした質問紙法は心身に特に問題のない成人が取り組む場合でさえ、最後まで回答するだけでかなりの負担がかかるものです。
項目数が少なくても、質問内容自体が被検者に心理的な負担をかけてしまう場合があるものも存在します。
そうした点も踏まえて、まずは検査を実施すること自体が被検者にとって有益なことなのか、実施が必要であれば被検者にとって本当に必要な検査は何かといったことをよく考えて実施することが大切です。