テスト・バッテリーの定義
心理的アセスメントにおいては、クライエントから話を聴くことに加えて、さまざまな方法を用いて多面的に情報を集めることが重要です。
クライエントのことを理解する方法として、面接で主訴や生育歴を聴く、様子や話し方を観察するといったこと以外に、心理検査を実施することが挙げられます。
そして、心理検査に関しても、1つだけではなく種類の異なる検査を組み合わせて実施することで、クライエントのことをより深く知ることができます。
いくつかの心理検査を一緒に実施することをテスト・バッテリーといいます。
心理検査には、質問紙法、投影法、描画法や作業検査法などの種類があります。
また、検査目的による分類として、ビネー式知能検査やウェクスラー式知能検査などの知能検査、新版K式発達検査などの発達検査、そして長谷川式認知症評価スケール(HDS-R)やミニメンタルステート検査(MMSE)といった神経心理学的検査などがあります。
アセスメントをする際に、面接や質問紙法の検査などからは言語的な情報を多く得ることができるので、クライエントが自覚している内容を知ることに役立ちます。
クライエントの仕草や表情を観察したり、描画法検査などを用いたりすると非言語的な情報を得ることができ、クライエントが自分でも気づいていない側面の情報を把握することに役立ちます。
もちろん、各心理検査には長所だけではなく短所があることも忘れてはなりません。
例えば、質問紙法はその検査で何を調べようとしているのかがクライエントにも理解しやすいことが長所となる一方で、社会的に望ましい答えを察して答えるなど、被検者が回答を意図的に歪めることも比較的容易です。
また、質問項目を自分で読んで回答していく場合、何を尋ねられているのかを理解するために、ある程度の言語能力が備わっていることがクライエントに求められます。
投影法検査は、回答が意図的に歪められにくい手法ですが、検査の意図がよくわからない状態で検査を受けさせられることや、曖昧な刺激に対して回答していくことに負担を感じるクライエントもいます。
また、検査結果の解釈にあたっては、解釈者の判断や熟練度が影響しやすく、客観性を担保することが難しいとも言えます。
質問紙法と投影法というテスト・バッテリーは、クライエントが自分で意識できる側面と、無意識に関する側面の情報が得られるため、よく用いられる組み合わせです。
テスト・バッテリーの関連キーワード
- 心理的アセスメント
- 心理検査
- 言語的・非言語的な情報
- 意識・無意識
テスト・バッテリーの補足ポイント
テスト・バッテリーの具体例としては、抑うつを訴えるクライエントに対して、SDS(自己評価式抑うつ性尺度)やCES-D(うつ病自己評価尺度)などの質問紙法を実施して抑うつの程度を数値化することに加えて、パーソナリティ傾向や病態水準を把握するためにロールシャッハ・テストを実施するといったことが考えられます。
同じく抑うつを呈しているとしても背景に発達障害が疑われるクライエントの場合、パーソナリティ傾向を知ることも支援に役立ちますが、まずは発達水準や発達障害の症状の有無を客観的に把握することが優先されるでしょう。
その場合は、ウェクスラー式知能検査と自閉症スペクトラム指数(AQ)やADHDの症状評価尺度であるCAARSといった検査を組み合わせることが一案となります。
心理検査が作成されるまでには膨大な労力や時間がかかっています。
例えば、社会的スキルの尺度を測定するとして、社会的スキルに関連しそうな質問項目をいくつか設定してみたというだけでは、その検査が本当に社会的スキルを測定できるのかという妥当性や、その検査を何回実施しても安定した結果が得られるかどうかという信頼性を備えているかはわかりません。
たくさんの心理検査を実施したとしても、それらの検査自体の信頼性・妥当性が低いものであれば、正確なアセスメントをすることができません。
そして、それに基づく支援計画も不適切になる可能性が高いので、実施する検査を精査することはとても重要です。
情報を得ることはクライエントの支援にとって重要ではありますが、心理検査の実施自体がクライエントに多少なりとも負担を与えるということは意識しておくべきでしょう。
そもそも検査は本当に必要なのか、複数の検査を実施する必要があるのか、つまり、クライエントの支援に本当に必要なことは何かを丁寧に検討することが大切なのです。
また、検査を実施した後は結果をクライエントに説明する義務があります。
クライエントにとって、自分の特徴を言語化して説明してもらうことは自己理解に役立ちます。
心理検査を実施するならば、その結果をアセスメントや支援計画の作成に役立てるのはもちろんのこと、クライエントの自己理解の助けともなるように実施していくことが望まれます。
人の心は、本人でも明確に理解することが難しいことがあります。また、人によって幾通りもの解釈が可能であり、正解はありません。
血液検査やレントゲンなどであれば、客観的なデータが得られ、その解釈基準も比較的明瞭です。
しかし、心理検査の場合は結果を見る側の要因が、結果の解釈に比較的大きく影響します。
解釈に幅があることは曖昧さという短所と柔軟性という長所の両者を含んでいます。
心理検査の中にも標準的な解釈手順が定められているものもありますが、それを機械的に当てはめたところでクライエントのことをきちんと理解できるわけではありません。
クライエントがその時置かれている状況、パーソナリティ、生活歴などを考慮して、クライエント一人ひとりに応じた解釈をすることが重要であり、テスト・バッテリーはそのために行うのだとも言えます。