モノアミン仮説の定義
うつ病はさまざまな要因が重なって生じると言われています。
要因として挙げられるのは、ストレスなどの心因、遺伝などの内因、そしてホルモンバランスや脳卒中後遺症などの身体因などです。
うつ病を引き起こす明確な原因はいまだ未解明の部分が大きいのですが、身体因の中でも脳機能の異常はうつ病に大きく影響を及ぼすものと考えられています。
1950年代に抗うつ薬が開発され、1960年代に入るとモノアミン仮説が提唱され、うつ病は脳機能の障害に起因するという考えに則って多くの研究がなされました。
ちなみにモノアミンとは、セロトニン、ノルアドレナリン、アドレナリン、ドーパミンなどの神経伝達物質の総称です。
モノアミンのうち、特にセロトニンとノルアドレナリンの増減と抑うつとが連動していることが分かっています。
モノアミン仮説とは、脳の中で情報を伝達する際に必要な神経伝達物質が不足すると、うつ病が生じるのではないかという考えです。
その仮説が正しいならば、抗うつ剤によって脳内のモノアミンを増やせばうつ病は回復するのではないかと考えられました。
モノアミン仮説の関連キーワード
- うつ病
- 抗うつ薬
- 神経伝達物質
- 海馬萎縮
モノアミン仮説の補足ポイント
モノアミン仮説でうつ病をうまく説明できる面がある一方、抗うつ薬を投与してモノアミンの量を増やしても、実際のうつ症状の改善までには時間がかかることや、モノアミンの量を調節しない薬でも抗うつ効果が認められる場合があるといった矛盾が指摘されるようになります。
そのためモノアミン仮説だけではうつ病を説明できなくなり、1970年代に受容体仮説というものが提唱されましたが、これも1980年代以降に開発されたSSRIといった抗うつ薬が出てくると、その薬の作用と矛盾が生じることが分かり、うつ病の説明としては不十分ということになりました。
最近ではMRIなどの脳画像を用いた研究から、うつ病の患者さんは脳内の海馬という部分の体積が小さいという報告などがあります。
海馬の神経細胞が損傷するとうつ症状が誘発されます。
抗うつ薬はこうした損傷を防いだり、神経細胞を修復したりする作用があるのではないかと考えられ、研究が進められています。
また、ラットによる研究では、母子分離によるストレスを受けると、海馬が委縮してしまう危険性が高まることが示されています。
母子分離のストレスは海馬を含めた脳神経の発達が妨げられる要因となり、結果的にうつ病が生じる可能性が高くなるようです。
モノアミン仮説や受容体仮説の他にも、神経可塑性仮説や神経炎症仮説などのさまざまな仮説が提唱されていますが、うつ病の原因は今でも明確にはわかっていません。
社会生活上のストレス、神経の損傷、免疫系や内分泌系の異常といったさまざまな要因が、うつ病の発症に関わっていることが示唆されています。
セロトニンがうつ病に関与しているので、セロトニンの産生をコントロールすればうつ病の予防や治療ができるといった単純な話ではないことは確かです。