人間性心理学の定義
人間性心理学とは、人間の正常で健康な側面を重視する心理学の分野の1つであり、代表的な研究としてはマズロー,A.H.の自己実現理論などがあります。
人間性心理学は、行動主義と精神分析が二大勢力だった1960年代に、マズローによって提唱されました。
行動主義では、人間は外的刺激などの環境要因の影響を受けるものという比較的シンプルな図式で捉えており、精神分析では、人間は無意識に支配されているといった面を強調していました。
こうしたアプローチの研究により、刺激に対する人間の反応のあり方や、精神疾患・異常心理などについての理解は深まりましたが、人間がより健康に生き、成長していくためには何が必要なのかといったことを探求していくにはこれらは不十分でした。
そこでマズローは人間性心理学というものを提唱し、自らこれを第三勢力の心理学と呼びました。
人間は、食欲などの単純な欲求(欠乏動機)を持つだけではなく、成長に向かおうとする成長動機も持っていると人間性心理学では考えます。
しかし、自らを高め自己実現に向かうといった欲求は高次のものと位置づけられており、食欲などの生理的欲求が満たされ、安全な生活が確保されないと、高次の目標を追求するという段階にはなかなか到達できないものです。
このような自己実現に向かっていくための欲求を段階的に表したものが、マズローの欲求の階層説として知られています。
人間性心理学の関連キーワード
- マズロー,A. H.
- 第三勢力
- 欠乏動機
- 成長動機
- 自己実現
- 欲求の階層説
人間性心理学の補足ポイント
人間性心理学の基本的な考え方として、人間は成長するものと捉えます。
また人間を全体的に捉え、それぞれの経験してきたことや独自性を尊重し、研究者・臨床家も相手に共感的に関わり、過去や現在の環境よりも未来を重視すること、そして人がより健康的に自己実現していくことを重要視します。
カウンセリングで言えば、個々の症状やパーソナリティ特性に部分的に着目するのではなく、クライエントがそれまでに辿ってきた生き方を尊重し、問題にとらわれすぎず、それから先にどう過ごせるようになるとよいかについて共感的に話し合うといった方法が人間性心理学で取られるアプローチだと言えるでしょう。
人間性心理学に属する研究者・臨床家としては、提唱者のマズローの他、
フランクル,V.E.
ビンスワンガー,L.
ロジャーズ,C.R.
ジェンドリン,E.T.
などがいます。
また、アドラー,A.は人間性心理学が提唱されるよりずっと前の世代の人物ですが、この立場の先駆者として位置づけられます。
これらの研究者たちに共通する考え方としては、人間は主体的に決断し、自らの生き方を決めていく存在であると見なしていることが挙げられます。