対人関係論

対人関係論

対人関係論の定義

対人関係論とは、アメリカの精神科医であるサリヴァン, H.S.による、精神病理に関する理論体系です。

サリヴァン,H.S.は、当時不治とされていた統合失調症の治療に力を注ぐ中で、「精神医学とは対人関係の学である」との考えを持ち、統合失調症やその他の精神疾患について、発症や治癒の理論を構築しました。

「精神医学とは対人関係の学である」というのはつまり、人格の発達は対人関係の場における経験によって決定づけられ、あらゆる精神病理は対人関係の失調と捉えられる、という考え方です。
それゆえにその治療も、治療者との患者との対人関係の場において成されるものである、とされます。

このようにして、発病の過程や治癒の過程を対人関係の相互作用によるものであると考えたところに対人関係論の基本があります。
ここでは、こうした対人関係論の中核となる自己論と自己破綻論について簡単に説明します。

 
サリヴァン,H.S.は、自己を何か実体のあるものではなく、父母などの周囲の重要人物の影響を受けて生成発展を繰り返すダイナミックな構造体と考え、これを自己組織と呼びました。

また、人が追求する目標として、食欲や睡眠欲といった満足欲求と、重要な他者からの承認といった、心理的・社会的な安全を求める対人安全保障感の2つを想定しました。
この2つの目標をめぐって、自己組織は生成されていくことになります。

自己組織は、安全保障感の獲得のために、他者の承認を受けたものだけに注意を向け、反対に他者が排斥したものを選択的に注意の外に置いてしまいます。
これを選択的非注意と言います。

 
さらに、他者の不承認は不安を発生させるため、自己組織はそうした不安を発生させる事態を次第に認知しなくなり、自己組織の外側に解離させます。
こうした、他者からの評価により、対人関係の産物として自己組織は生成されていくことになるのです。

さて、このようにして生成された自己組織が、歪んだり破綻をきたしたりすることが、すなわち発症であるとサリヴァンは考えました。
彼は、統合失調症とは、自己組織そのものが大きく失調し、意識をコントロールできなくなった状態と見なしたのです。
自己組織そのものの失調とはつまり、自己の外に解離されていたはずのものが、自己のうちに流れ込んできてしまう状態のことを指します。
安全保障感を保つために解離されていたものが自己のうちに流入することで、患者の安全保障感は深刻に脅かされ、人格の破綻という恐怖を体験します。

 
このため、サリヴァンは、患者の傷ついた安全保障感を回復させることを治療の焦点に置きました。
彼の重要な概念の1つに、関与しながらの観察があります。
これは、治療において、治療者は純粋に客観的な観察者ではありえず、治療者自身も対人的相互作用に巻き込まれながら、治療に関与する治療者自身の要因も含めて患者の治療にあたらねばならない、という考え方です。

このように、安全保障感の獲得も、その失調と回復も、あくまで対人関係の場において立ち現れるという点が、対人関係論の重要な点と言えます。

対人関係論の関連キーワード

  1. サリヴァン, H.S.
  2. 自己組織
  3. (対人)安全保障感
  4. 選択的非注意
  5. 解離
  6. 自己組織の破綻
  7. 関与しながらの観察

対人関係論の補足ポイント

ここでは、対人関係論の精神医学史における位置づけについて説明します。

サリヴァンは、フロム, E.、ホーナイ, K.、フロム-ライヒマン, F.などと共に対人関係学派、あるいはネオ・フロイト派とも呼ばれ、フロイト以降の精神医学に大きな影響を持ちました。

彼らは、フロイトのリビドー論という生物学的側面の重視を批判し、人格の発達においてより社会的文化的な対人関係を重視する考えを示したのです。
こうした潮流は、精神内界の記述が主であった精神医学の場に、社会的存在としての人間という観点を持ち込み、社会の中での精神医療の展開を可能にしたと言えるでしょう。

MEMO

サリヴァンに影響を与えたのは、フロイト, S.だけではありません。アドラー, A.やユング, C.G.なども、サリヴァンの考え方に影響していると言われています。
それぞれの理論の共通点や違いを見てみることで、より理解が深まるでしょう。