病態水準

病態水準

病態水準の定義

病態水準とは精神疾患の重症度を表す分類のことです。
精神機能の働き具合や成熟度に応じて、何段階かに分けて評価します。

精神医学において、パーソナリティや気質と精神疾患の重症度とを関連させたさまざまな理論がこれまでに提唱されていますが、近年では、カーンバーグ, O. F. のパーソナリティ構造論に基づく分類が最もよく知られています。

従来の精神医学では、比較的軽症の病態である神経症か、比較的重症の精神病かという観点から精神疾患の重症度を判断することが広く行われていました。
しかし、当初は神経症と見立てた患者に精神病のような症状が出現する事例も見られ、1950年代に入ると、神経症と精神病の中間の状態を想定する境界例という言葉が使われるようになります。

1960年代以降は、カーンバーグを含む多くの研究者が、パーソナリティ障害という観点から境界例を捉えるようになりました。
その後、境界性パーソナリティ障害という診断名がDSM-IIIに取り入れられたこととも相まって、カーンバーグの病態水準論に関する研究はさらに発展していきました。

病態水準の関連キーワード

  1. 同一性の統合性
  2. 防衛操作
  3. 現実検討
  4. パーソナリティ構造
  5. 神経症水準
  6. 境界例水準
  7. 精神病水準

病態水準の補足ポイント

カーンバーグの病態水準論では、同一性の統合性、防衛操作、現実検討という3つの観点に着目します。

同一性の統合性とは、自我同一性の確立の程度と、自他の境界の明確さを表します。
同一性が確立されていないと、打ち込むべき仕事や社会的役割が定まりにくく、自他の境界が明確ではないと、他者と適切な距離感を保って接することが難しいため、情緒面も対人関係のあり方も不安定になる傾向が見られます。

防衛操作は、抑圧を主体とした高次の防衛機制と、分裂を主体とした未熟な防衛機制である原始的防衛機制とのどちらが優勢かという点と、防衛機制の使い方の適切さから判断されます。
原始的防衛機制が多用されたり、高次の防衛機制であっても偏った使い方になったりすると不適応が生じやすくなります。

現実検討は、現実の出来事と心の中の出来事とを区別し、物事を現実に則して評価できる能力のことです。
現実検討ができないと、例えば、実際の出来事と想像上の出来事とを混同して妄想が生じ、さらに、そうした自分の症状が病的であると認識できない病識欠如の状態が見られるようになります。

そして、これらの3つの機能の背後に想定される自我や対象関係のあり方をパーソナリティ構造として捉え、その発達程度に基づいて神経症水準、境界例水準、精神病水準に分類します。

神経症水準は、同一性は統合され、抑圧などの高次の防衛機制を主に用い、現実検討は保たれています。
例えば、一過性に抑うつや不眠を呈している適応障害の人などは神経症水準であることが多いでしょう。

境界例水準になると、同一性は拡散傾向にあり、未熟な原始的防衛機制が用いられることが多く、時に現実検討が損なわれます。
パーソナリティ障害の人のほとんどがこの水準に該当します。

精神病水準では、同一性が統合されておらず自他の境界が不明瞭で、原始的防衛機制が中心に用いられ、現実検討能力に乏しいことが特徴です。
統合失調症や妄想性障害といった重篤な疾患を有する人は、精神病水準の可能性が高いと言えます。

神経症水準境界例水準精神病水準
同一性の統合性統合拡散傾向拡散
防衛操作高次の防衛機制が主体原始的防衛機制も見られる原始的防衛機制が主体
現実検討保たれている時に損なわれる乏しい

カウンセリングで話を聴く限りでは、自我同一性や現実検討などに問題は見られず神経症水準と見立てられた人でも、心理検査を実施してより深層部分もアセスメントしていくと、境界例水準が示唆される原始的防衛機制の所見が得られることもあります。

神経症水準であればカウンセリングが有効なことが多いとしても、境界例水準や精神病水準の場合はカウンセリングによって病状を悪化させることもあるため、注意が必要です。

MEMO

統合失調症の主要な症状について一級症状として概念を整理した精神科医のシュナイダー, K.は、神経症と精神病との間には明確な境界線があると見なし、両者を切り離して捉えていました。
こうした従来の考え方に対して、病態水準論では、各水準の間にスペクトラムとしての連続性があるという捉え方をすることも可能となっています。

そうしたこともあって、カーンバーグの理論を含めて病態水準論は定義づけが曖昧になりやすく、また、理論的なエビデンスを示しづらいといった批判もあります。

しかし、患者の症状やその背後にある精神機能の状態、そしてそれらの揺れ動きを把握し、一人ひとりに則したアセスメントと支援を行うためには、病態水準論は欠かせない視点を提供してくれているのです。