移行対象の定義
移行対象とはウィニコット,D.Wが提唱した概念です。
移行期と呼ばれる1~3歳頃に、肌身離さず持っている客観的な存在物で、特に不安が高まったときなどに抱きしめたり握り締めたりする愛着対象のことです。
具体的には、ぬいぐるみ・毛布・タオルなどがその対象となります。
ウィニコットによれば、この時期、しつけなどが始まることで、完全に母親に依存し常に欲求が満たされていたために抱いていた全能感(錯覚という)が崩壊します。
失敗、欲求不満の体験や不安感を持つのです。
しかし、このとき母親の感覚を思い出させる移行対象に触れることで、幼児は欲求不満や不安を軽減します。移行対象は、分離不安に対する防衛といえます。
主体性や自主性が育っていくにつれ、現実の客観的世界と、現実的で安定した相互作用ができるようになり、全能感は適度な自尊心へと変わっていきます。
これをウィニコットは脱錯覚と呼びました。
つまり、移行対象は、幼児の錯覚が脱錯覚されていく過程における代理的な満足対象といえるのです。
移行対象の関連キーワード
- ウィニコット,D.W
- 錯覚、脱錯覚
- 移行領域
- 万能感
- 対象関係論
- 中間派
移行対象の補足ポイント
移行対象に関連し、移行領域というキーワードも確認しておきましょう。
移行領域とは、母親への絶対的な依存の状態における万能感から、相対的な依存の状態における現実検討力の獲得へと移行する時期に出現する、完全な主観的世界でも完全な客観的世界でもない、特有の主観的世界観を指します。
移行領域は「中間領域」とも呼ばれます。
移行対象は、この移行領域で出現する愛着対象であるため、このような名がついているのです。
さて、ウィニコット,D.Wは「対象関係論」と呼ばれる学派の1人です。
対象関係論とは、エディプス期(フロイト,S,が提唱した精神分析的発達段階の1つ。男根期ともいう)以前の段階での母子関係における自我の発達を扱う理論です。
ただし、ウィニコットは、フロイト正統派の自我心理学や、クライン学派から影響を受けながらも、中立的な立場をとり、独自の対象関係理論を発展させていきました。
そのため、対象関係論の中でも独立し位置づけられる「中間派」「独立派」などと呼ばれています。
精神分析に関連する事項をまとめる際には、キーワードはもちろんのこと、フロイト,Sの精神分析から派生した学派、人物名なども整理しておくとよいでしょう。
子どもの頃にずっと大切にしているぬいぐるみやタオルがあったという方も多いかもしれませんね。これらはまさに移行対象と言えるでしょう。
仮に子どもがこうしたぬいぐるみなどに執着しても、親は移行対象を取り上げない方がよいのです。現実の外の世界に慣れていくにつれ、そうした移行対象からも自然と卒業することが多いと言われています。