自我心理学の定義
自我心理学とは、フロイト, S.によって創始された精神分析の考え方の中のうち、自我の機能を中心として人間の心を捉えようとした学派です。
1940年代から1960年代にかけてアメリカで主流となり、大きな影響力を持ちました。フロイト, S.はその精神分析の理論を構築する中で、人間の心的機能を自我、超自我、エスの3つに区別しています。この考え方を構造論と呼びますが、自我心理学はこのうち特に自我の機能に着目し、その働きを明らかにしようとしたものです。
自我心理学の文脈の中でさまざまな理論が提唱されていますが、ここでは、自我心理学を確立した中心的人物であるフロイト,A.、ハルトマン,H.、エリクソン,E.H.の理論を紹介します。
フロイト, S.の娘であったフロイト, A.は、子どもへの精神分析の実践の中で、自我に着目して治療を行うことが有用であるとの考えに至ります。
そして、その著書『自我と防衛機制』の中で、自我の重要な機能として防衛機制について体系的にまとめました。
防衛とは、フロイト, S.によって既に記述されていた考え方で、無意識の欲動や懲罰的な超自我から生じる不安や抑うつなどの不快感情を、弱めたり避けたりすることで心理的安定を保つことを指します。
フロイト, A.は、この防衛のあり方を整理し、抑圧、退行、反動形成、置き換え、投影、打ち消し、否認、昇華、などを挙げ、これらの機能は発達と共に変遷するということも述べました。
ハルトマン, H.は、自我の機能について、フロイト, S.やフロイト, A.が述べるような防衛の機能、つまり、超自我やエスと現実との葛藤を調整する役目としての自我という考え方に、新しい視点を加えます。
それはすなわち、自我には葛藤から自由な自律的な機能が備わっている、ということです。これをハルトマンは、防衛的自我と区別して自律的自我と呼び、自我の適応機能に着目しました。
そして、自我の機能を、さまざまな精神諸機能をまとめる統合機関として位置づけたのです。
こうした、人格の統合機能としての自我の発達という考え方を、さらに社会や文化への適応の過程として捉えて理論を展開したのが、エリクソン, E.H.です。
エリクソンは人が生まれてから死ぬまでの生涯にわたる発達を視野に入れ、その発達段階を8つの時期に分けました。
そしてそれぞれの時期に特有の発達課題を見出したのです。
この理論全体をライフサイクル論と呼びますが、その中核として、自我同一性(アイデンティティ)の確立やモラトリアムという概念を提唱しました。
自我心理学の関連キーワード
- フロイト, S.
- 構造論
- フロイト, A.
- 自我の防衛機制
- ハルトマン, H.
- 自律的自我
- エリクソン, E.H.
- ライフサイクル論
- 自我同一性
自我心理学の補足ポイント
自我心理学の基礎になったフロイト, S.の精神分析は、非常に個人的な心理的問題へのアプローチから生まれたものです。自我心理学は、そうしたフロイト, S.の考えを受け継ぎながらも、一般心理学との接点を広げ、科学的・客観的な視点で人を理解するということを可能にしたと言えるでしょう。
自我心理学の考え方は、ロールシャッハテスト、PFスタディ、TAT(主題統覚検査)など、種々の人格検査にも応用されています。自我の防衛機制のあり方、自我の機能の発達の程度、自我の強さなど、自我の働き方を理解することで、意識的な自己評価以外の方法で個人のあり様を明らかにすることができる点で、非常に有用であると言えます。
自我心理学がアメリカで主流となっていた頃、イギリスにおいて自我心理学に対抗するように台頭したのが、クライン, M.を中心として発展した対象関係論です。あわせて学んでおくとよいでしょう。