不安症の定義
新しいことに挑戦するときや、トラブルが起きたときなど、日常生活の中で、不安や恐怖を感じたりすることは誰にでもあります。
しかし、そうした感情があまりに強く、また長く続くことで、日常生活に支障が出るような状態は、不安症(不安障害)と総称されます。
国際的診断基準であるDSM-5には、不安症群というカテゴリーの中に、分離不安症/分離不安障害、選択性緘黙、限局性恐怖症、社交不安症/社交不安障害(社交恐怖)、パニック症/パニック障害、広場恐怖症、全般不安症/全般性不安障害などが含まれています。
不安症に対する支援方法は、医学的アプローチとしては抗不安薬などによる薬物療法があります。
心理学的アプローチとしては、認知行動療法や心理力動的心理療法などが有効であると言われています。この2つの心理療法は、ランダム化比較試験によって不安症に対する有効性が示されています。
不安症の関連キーワード
- 不安症群
- 分離不安症
- 選択性緘黙
- 限局性恐怖症
- 社交不安症
- パニック症
- 広場恐怖症
- 全般不安症
不安症の補足ポイント
不安症群に含まれる疾患について、概要を説明します。
分離不安症は、愛着を持っている人や対象から離れることに、過剰に不安や恐怖を感じる疾患です。
これは子どもだけではなく成人にも生じることがあり、自分の親、子ども、配偶者から離れられなかったり、過剰に心配をしたりする症状が見られます。
選択性緘黙は、家などでは普通に話すことができるにもかかわらず、学校などの、話すことが期待される特定の社会的場面では話すことができない疾患です。
限局性恐怖症は、特定の対象や状況に対して過剰な恐怖と不安を示す疾患です。
恐怖の対象は、動物、自然環境、狭い場所などが挙げられます。
動物は噛み付くから怖いと感じる人もいますが、限局性恐怖症があると、実際の危険性とは不釣り合いなほどの恐怖感を示します。
社交不安症は、社交恐怖や対人恐怖とも呼ばれ、他者から注目される可能性がある社交場面で、強い不安や恐怖を感じる疾患です。
そうした社交場面とは例えば、人と雑談や飲食をする、人前でスピーチをするといった状況が挙げられます。
パニック症は、激しい不安や、動悸、呼吸困難などが予期せず生じるパニック発作が、繰り返し起きる疾患です。
以前パニック発作を起こした場所に行ったり、または行くことを考えたりするだけでも、また発作が起きるのではないかという予期不安を感じてしまい、そこから恐怖症が生じることもあります。
広場恐怖症は、交通機関や広場、群衆の中などの特定の場面で、パニック症状や困ったことが生じたときに、そこから逃げ出すことや、助けを得ることができないと考えてしまい、恐怖を感じる疾患です。
全般不安症は、仕事や学業、健康、対人関係、家事などのさまざまな活動に関して、過剰な不安を抱く疾患です。
制御できない不安から、緊張感、疲労感、集中困難、怒りっぽさ、不眠などの症状が長期間にわたって生じます。
不安症の症状に悩みながらも、医療機関を受診していない人の数も多いと推測されています。
適切な支援が受けられないまま、不登校、ひきこもりや休職につながる場合もあり、学校や仕事に行けない状態が非常に長期化してしまうことも決して少なくはありません。
中には「こんなことで不安になるのはメンタルが弱いから」のように考えて、無理を積み重ねていくうちに、最終的に大きく体調を損ねてしまう人もいます。
日常生活の中で不安をまったく感じない人はほとんどいないでしょう。
しかし、辛いと感じた場合は早めに周囲の人や専門家に相談し、自分の心のケアをしていくことは、とても大切なことです。
DSM-Ⅳでは、不安障害というカテゴリーの中に、強迫性障害、外傷後ストレス障害、急性ストレス障害も含まれていました。
これらはDSM-5では不安障害群から独立し、強迫症および関連症群と心的外傷およびストレス因関連障害群という別のカテゴリーの中に分類されました。
こうした分類変更には、各疾患が発症するメカニズムとして、それぞれ異なる脳の回路が関与していることが、いくつかの研究によって示唆されたことが背景にあります。