依存症の定義
依存症とは、習慣的に行っている行動が過剰となり、その行動をしたいという衝動を自分ではコントロールできなくなっている状態のことです。
一般的には依存症という言葉が広く知られていますが、医学や心理学では嗜癖という言葉が専門用語として使われます。
臨床現場などでも依存と嗜癖は明確に区別せずに使用されることがありますが、依存(嗜癖)の対象がアルコールや薬物などの物質である場合は依存症、対人関係やギャンブル、ゲームなどの行為や過程、人間関係に関連する場合は嗜癖という言葉が用いられる傾向にあります。
このページでは、上記の分類に従って解説しています。
依存や嗜癖の対象によって分類すると、アルコールや薬物などの物質に対する物質依存、ギャンブルや買い物を過剰にするなどの行動嗜癖(過程嗜癖)、他者に対する関係嗜癖に分けられます。
国際的診断基準の1つであるDSM-5では、物質関連障害や嗜癖性障害群という用語が用いられており、いわゆるアルコール依存症はアルコール使用障害という診断名で記載されています。
行動嗜癖については、DSM-5にはギャンブル障害という診断名がすでに含まれており、今後はインターネットゲーム障害を加えることが検討されています。
2022年に改訂された、もう1つの国際的診断基準のICD-11には、ゲーム症(障害)が含まれました。
なお、関係嗜癖は医学的な診断名ではなく、現在はDSMなどの診断基準には含まれていません。
依存症の関連キーワード
- 嗜癖
- 物質依存
- 行動嗜癖(過程嗜癖)
- 関係嗜癖
- インターネットゲーム障害
- 離脱症状
- 報酬系
- 自助グループ
- クロスアディクション(多重嗜癖)
依存症の補足ポイント
アルコール依存症では、「お酒を飲みたい」という渇望が異常に強く、お酒を飲まないように我慢することが極めて困難であるという特徴が見られます。
ずっと禁酒していると離脱症状が生じ、イライラしたり手が震えたりします。そして、以前のお酒の量では満足できなくなり、お酒に対する耐性が形成されることで次第に酒量が増えていきます。
長期にわたってアルコールや薬物を摂取した後に、その使用を中止したり、摂取量を減らしたりしたときに生じる特異的な身体症状が、離脱症状です。
これらの症状は、依存対象となる物質を再摂取することで収まります。だからこそ、依存から抜け出すことは容易ではありません。
離脱症状は物質依存だけではなく、ギャンブルをしないと落ち着かず怒りっぽくなるなど、行動嗜癖においても生じます。
行動嗜癖の対象には、ギャンブル、インターネットゲーム、買い物、自傷行為、性的逸脱行動、万引きなどが含まれ、これらに関する行動をコントロールできず、社会生活に大きな問題が生じているにもかかわらず、その行動をやめられない状態を呈します。
関係嗜癖は、特定の相手との関係性に過度に依存し、その相手とのつながりを維持することに囚われている共依存や、さまざまな不利益が生じるにもかかわらず恋愛関係を繰り返す恋愛嗜癖などの形で見られます。
近年、物質依存と行動嗜癖とは、いずれも脳の報酬系などの共通の部位が関連していると指摘されています。
例えばお酒を飲んだりギャンブルをしたりすると、ドパミンという神経伝達物質の放出により報酬系が活性化され、快感や多幸感が生じます。
しかし、飲酒やギャンブルを繰り返すと、徐々に脳がドパミンに反応しなくなってきます。そうなると、さらに強い刺激を与えて快感を再び得ようと渇望するようになり、酒量が増えたり、ギャンブル行為がエスカレートしたりします。
依存症や嗜癖の治療は、基本的には心理教育や認知行動療法、マインドフルネスやソーシャルスキルトレーニングを取り入れたプログラムを実施するなどの心理学的アプローチが主体となり、離脱症状を軽減させる薬や気分安定剤を補助的に併用します。アルコール依存症の場合は抗酒薬を使用する場合もあります。
また、自助グループに参加することも大きな助けとなります。
自助グループとは、同じ問題を抱える人たちがお互いに援助し合うことで、各自の問題解決を図るために集まるグループのことです。
こうしたグループの活動では、当事者同士で情報交換を行うことができ、他の人が問題にどう向き合い、対策をしているかといったことについて、モデリングを通じて相互学習し、セルフケアのスキルを高めることができます。
また、他者の考えや意見を聞くことで自身の問題を客観的に捉え直す効果や、他の人の力になれていると感じることで自尊感情を高める効果もあります。
複数の依存症・嗜癖を併発している状態を、クロスアディクション(多重嗜癖)といいます。
依存症や嗜癖の背景には、漠然とした不安感や空虚感などが通底していることが多く、複数の依存症・嗜癖が同じメカニズムにより発症してしまうことがあります。
また、アルコール依存症の人が断酒をしたものの、イライラを鎮めるためにパチンコに通うようになるなど、別種の依存症・嗜癖に移行してしまうケースも多々見られます。