社交不安症の定義
社交不安症は、不安症に含まれる精神疾患の1つで、人前で話す、誰かと食事をするなど、他者から注目される可能性がある場面で強い不安を感じることを特徴とします。
赤面恐怖や視線恐怖を含む対人恐怖症とほぼ同義ですが、DSM-5においては社交不安症という診断名で記載されています。
対人恐怖症や社交不安症がある人は、必ずしも人そのものが嫌いというわけではありません。
人との関わりの中で恥をかいたり、他者の迷惑になったりすることを過度に恐れているのであり、そうした社交場面を過剰に恐れるのだと言えます。
社交不安症の人は、その状況で一般に想定されるよりも過剰な不安を示します。
慣れない人と食事をするときは、誰しも多少緊張することはあるかもしれませんが、社交不安症がある場合は、学校や職場で普段よく接している人たちと食事をするときでも、食べ物を飲み込めなくなるほど緊張するようなことがあります。
そのため、できるだけ社交場面を避けようとするため、学校生活や職場での活動、対人関係などに支障が出てしまいやすいのです。
より具体的に症状を挙げると、例えば、職場での電話中に、自分が話している内容を周囲の人が聞いているのではないかと、通話相手よりも周りの人の存在が気になるといったことが挙げられます。
その他には、会議に参加して話を聞いているだけであれば平静を保てても、自分が参加者の前で発表をするとなると、非常に強い不安が生じたりすることもあります。
そして、発表中には、上手く説明できなかったら恥ずかしい、顔が赤くなっているのを皆が注目している気がするといった不安を抱きます。
社交不安症の関連キーワード
- 不安症
- 対人恐怖症
- 認知行動療法
- 森田療法
社交不安症の補足ポイント
社交不安症の症状が維持される要因として、1つ目には、注意が自分自身にばかり向けられ、他者の反応を客観的に見られないことが挙げられます。
人前で話しているときに、自分が汗をかいて、息切れや動悸が生じていることは嫌というほど感じてしまう一方で、その場に居る他の人は居眠りをしていたり、他の人同士で雑談をしていたりする人もいて、みんなが自分の一挙手一投足に注目しているわけではないと落ち着いて考えることができません。
2つ目には、自分の感情や身体反応をもとに否定的な自己イメージを形成することが挙げられます。
これだけ不安そうに手や声を震わせながら喋っているのだから、自分はとても臆病者で喋るのが下手だと思われているに違いないと、否定的な自己イメージを形成します。
しかし実際には、周囲の人はそのように否定的には見ていなかったり、そもそも発表者が不安そうに喋っていることにすら気づいていなかったりすることも多いものです。
また3つ目には、人前で恥をかくといった強い不安を喚起する結果が生じないように、自分の意見は一切言わないなどの安全な行動だけを行うことも要因の1つです。
その結果、意見を言っても恥をかかない経験がいつまでもできず、不安と安全行動だけが続くことになるのです。
治療としては、抗不安薬による薬物療法と併用して、不安を実際よりも大きく感じてしまう認知スタイルや、不適応的な行動を変容させるための認知行動療法が有効です。
社交不安や対人恐怖に関する具体的な研究は、欧米では1960年代頃から現れ始めています。
それに先駆けて、日本では1920年頃に精神科医の森田正馬が、対人恐怖症の症状や病理について詳細な考察を行っていました。
森田正馬が考案した森田療法では、対人恐怖症もその主な治療対象に含まれていました。
この治療法においては、人前で恥ずかしさを感じる自分自身を自覚し、ありのままに受け入れることを通じて、症状にとらわれなくなることを目指します。