生物・心理・社会モデル

生物・心理・社会モデル

生物・心理・社会モデルの定義

生物・心理・社会モデルとは、健康について多面的・包括的に捉える理論モデルのことです。

かつて健康状態や疾患は、何らかの原因があって疾患や障害が生じるという直線的な因果関係を想定した生物医学モデルで捉えることが主流でした。
このモデルに基づくと、ある検査値が基準値を超えればそれに対応する疾患と診断する、原因物質が特定されればその除去を行うといったことが行われます。

しかし、これでは、原因が不明であったり、または原因が複数存在したりする場合や、ストレスや情動などの心理的要因によって、身体にさまざまな反応が生じる心身相関の説明がつきません。

そこで、1977年に精神科医エンゲル, G. L.が提唱したものが、人の健康状態や疾患を「生物」、「心理」、「社会」という3つの側面から包括的に理解するための「生物・心理・社会モデル」です。

この考え方は、国際生活分類ICFや精神障害の診断と統計マニュアルDSM‐5にも共通しており、精神疾患を、個人を取り巻く多面的要因の相互作用によるものであると捉えます。
 

生物的要因としては、神経、遺伝、細菌やウイルスなどが挙げられます。
生物的要因による疾患や障害、外傷などに対しては、医師や看護師、薬剤師らによる薬物療法、処置・手術、リハビリテーションなどが行われます。

心理的要因としては、感情、認知、ストレス、対処行動、信念などの個人的な要素が挙げられます。
疾患の背景に心理的要因が想定される場合は、臨床心理士、公認心理師らが心理療法心理教育などで支援を行います。

社会的要因としては、貧困や雇用などの経済的な状態、人種や文化、相談できる人や公的サービスといった社会資源の有無などが挙げられます。
社会的要因に対しては、社会福祉士などの専門家のみならず家族や地域の人々などによるソーシャルサポートが支援となり得ます。

生物・心理・社会モデルの関連キーワード

  1. 生物医学モデル
  2. 心身相関
  3. 薬物療法
  4. 心理療法
  5. 心理教育
  6. ソーシャルサポート

生物・心理・社会モデルの補足ポイント

ここで生物・心理・社会モデルについて、架空の事例を通して検討してみましょう。

66歳男性。子どもは成人して家を出て独立しており、本人は長年勤めた会社で定年を迎えた後、現在は同じ会社で再雇用されて時短勤務をしています。

ここ数ヶ月で持病の心臓病が少し悪化して以来、意欲が低下しており、趣味の家庭菜園も身が入らなくなっています。
さらに、物忘れが増え、家族にさっき聞いたことを何度も尋ねる様子が見られ、家族からは認知症の初期症状ではないかと心配されています。

この男性の例では、かかりつけ医が居るので、持病やその他の身体疾患によって意欲低下や物忘れが生じていないかどうかを、生物的側面から調べてもらうことができます。

血液検査や画像診断を行っても身体的な異常がないことが判明すれば、心理的側面からの介入としてカウンセリングなども支援の選択肢として挙がります。

カウンセリングを受けても状態が変わらない場合は、社会的側面からのアプローチとして、地域の公民館などで同じ趣味の人が集まるグループを見つけて、集団活動に参加することも有効かもしれません。

また、もし実際に認知症の徴候が出てきた場合は、介護や支援などの福祉サービスを受けるように促すことで、社会的側面からの支援を提供できます。
 

すべての専門家は互いに連携し合い、患者に変化をもたらすためには円環作用が生じることが望ましいとされます。
患者はこうした多面的なアプローチにより支えられ、さまざまな領域での介入や援助を得ることが可能となります。

MEMO

心身相関とは、心理・社会的要因が身体的・生物的状態に影響を与えると同時に、身体的・生物的要因が心理・社会的状態に影響を与えるという、双方向の関係性についての概念です。

具体的には、抑うつの程度やソーシャルサポートの有無が、悪性腫瘍患者の生存率に影響する可能性があること、がんなどの悪性腫瘍の患者はうつ病を併発する比率が高いと言われていることなどが、例として挙げられます。

その他、仕事でグループの代表としてプレゼンを行う際に、責任感や緊張から血圧が上昇して動悸が生じたり、入浴して身体を温めると気持ちが落ち着いたりすることは、日常的な心身相関の例です。