刻印づけの定義
刻印づけとは、ローレンツ,K.により提唱された、エソロジーにおける概念です。
ある生物有機体に、特定の時期に、特定の刺激によって生じた反応が、反復的な学習・経験・報酬がなくても一貫して生じるようになることがあります。
刻印づけは、そうした刺激と反応の組み合わせが半永久的に消失しない現象を指すもので、刷り込み(インプリンティング)とも呼ばれます。
離巣性の鳥類が、孵化した直後に初めて出会った対象に接近したり追従する現象が具体例として有名です。
この刻印づけは、特定の時期を逃すと成立しないことが多いとされています。
刺激と反応の連合が最も起こりやすい特定の時期を臨界期あるいは敏感期と言い、多くの場合、誕生直後の時期や発達の初期段階とされています。
そのため、初期学習や初期経験の重要性を示す概念としても提唱されています。
また、この現象は、親子の相互認知、愛着の形成とも深く関係するものと考えられています。
刻印づけの関連キーワード
- ローレンツ,K.
- 刷り込み(インプリンティング)
- 臨界期・敏感期
- 初期学習
- エソロジー
刻印づけの補足ポイント
通常、後天的にものを覚える、つまり学習が成立するためには、特に知能がさほど発達していない動物では、繰り返しと一定の時間の持続が必要であると考えられていました。
しかし、刻印づけの例では、ほんの一瞬でその記憶が成立するという点で大きく異なります。
この現象は古典行動主義が想定していたような、行動は刺激に対する古典的条件づけあるいはオペラント条件づけの結果であるという単純な結びつきでは説明することができません。
刷り込みに関わる行動は、その基本的な部分は先天的、遺伝的に持っているものであり、そこに後天的に変更可能な部分が含まれていることを示しています。
さて、刻印づけがエソロジーにおける概念ということはすでに述べましたが、このエソロジーとは、「動物行動学」「比較行動学」と訳されるもので、人間を含む様々な動物の行動についての生物学的比較研究を行う学問領域です。
1950年代にローレンツ,K.、ティンバーゲン,N.、フリッシュ,K.らによって発展し、学問的に確立されました。
対象をできるだけ自然の環境・生活場面において自然観察を行い、そこから種に固有な、遺伝的に組み込まれた行動様式を明らかにしようとするもので、近年では、さらに分子生物学の知見を取り入れて、脳・神経系レベルでの研究がなされています。
刻印づけは、動物によって発現の仕方が異なる場合があります。
単に動くものを親と認識する動物もいれば、動くだけではなく特定の鳴き声が同時に聞こえないと親とは認識しない動物もいるのです。
刻印づけ以外にも、動物は特定の刺激に対して、特定の反応をする仕組みが生まれつき備わっており、心理学や行動生物学では、その仕組みのことを生得的解発機構と言います。
このような生得的な仕組みに基づく行動は、動物たちが環境に適応して、生き延びたり子孫を残したりする上で重要な役割を果たしています。