内観療法の定義
内観療法は、日本独自の心理療法の1つです。
浄土真宗の身調べという修行法からヒントを得て、吉本伊信が開発したもので、神経症や心身症の治療などを目的として行われるようになりました。
内観療法では、過去に体験した、「お世話になったこと」「して返したこと」「迷惑をかけたこと」という3つの点について内省する内観という手法を用いるのが特徴です。
基本となる合宿形式の集中内観と、日常生活の中で行っていく日常内観とがありますが、集中内観は基本練習として捉えられており、その後の、日常内観がより重視されています。
内観療法を通して、クライエントは、自分は一人きりで生きているのではなく、他人に生かされ、受容されているのだということに気づくようになります。
その結果、自己受容や自己理解、他者受容や他者理解が進んでいき、不適応や精神疾患の治療へとつながると考えられているのです。
内観療法の関連キーワード
- 吉本伊信
- 浄土真宗の身調べ
- 内省
- 集中内観
- 日常内観
内観療法の補足ポイント
集中内観は、日常生活から離れた場所で合宿形式をとるもので、クライエントは、他者との接触、外部刺激を遮断した、薄暗く狭い静かな空間に置かれ、毎朝、数時間の内省を行っていきます。
具体的には、上記の3つの点について、思い出せる範囲で最も幼い頃の、最も身近な存在である親との関係について内省します。
内省した内容を1~2時間おきに治療者に報告し、休憩後、最も身近な家族から、周囲の他者へと対象を拡げていき、発達の過程を順に上がっていきます。
こうした流れで、3つの点を内省→報告→休憩と繰り返していくのです。
内観により、クライエントに生じる変化として、1つに「愛情の再確認」があります。
愛されていなかったのではないかという不信感や被害者意識が弱まり、安心感を得ることで、生きていくことや困難に立ち向かう自信へとつながっていくと考えられます。
また、「自己中心性」も自覚します。
自分の身勝手な考えや行動により、周囲の人にどれだけ迷惑をかけたか自覚することで、周囲の人々に共感する心や、仕事や勉学や人生に対する自己の責任を自覚するようになります。
さらに、「意欲の向上」も見られます。
自己や他者を重層的、多面的、歴史的に理解し、自己理解や他者理解が深まることで、より意欲的に、社会に適応した行動が取れるようになります。
適用としては、神経症や心身症の治癒の他、アルコール依存・薬物依存、摂食障害などさまざまな範囲に効果があるとされています。
ただし、内観療法は本人の意欲がとても重要となります。
また、統合失調症や重度のうつ病、パーソナリティ症への適用については、意見が分かれているところです。
日本発祥の心理療法には、内観療法の他に森田療法というものもあります。
内観療法は自己の内面を洞察することに重点を置いていますが、森田療法は行動を重視するという違いがあります。
森田療法では、絶対臥褥期は食事や排泄の他は寝て過ごし、心身の休息を図ります。
その後の軽作業期、重作業期、生活訓練期では、掃除、畑仕事、外出や買い物などの行動を通じて、不安や症状のとらわれから解放されることを目指します。
それに対して内観療法は、静かな環境で長時間自己と向き合うことが特徴であり、その過程で否定的な感情が沸き起こることもあります。
そうした感情についてもしっかりと向き合うことで、自己洞察が深まり、感謝や反省といった新たな気づきを得ることができると考えられています。