芸術療法の定義
芸術療法とは、描画、音楽、詩歌、ダンスといった芸術活動を行うことにより治療効果をもたらそうとする心理療法の総称です。
人間が生来的に持つ、自らの心の内奥にあるものを何らかの形で表現したいという欲望を基礎としています。
芸術療法の代表的なものには、描画療法、箱庭療法、音楽療法、詩歌療法、ダンスセラピーなどがあります。
芸術活動を行う、つまり表現することにより、内的な衝動や感情、葛藤の表出が可能となり、カタルシス効果が得られると考えられているのです。
主に対話以外の表現を用いるため、比較的表層の意識的・合理的な表現である言語表現に比べて、衝動的・直観的な表現が可能なため、より深層の心的世界が投影されるのが特徴です。
また、子どもや障害を抱える人にも適用できるという点も特徴の1つとして挙げられます。
芸術療法の関連キーワード
- 描画療法
- 箱庭療法
- カタルシス
- 昇華
芸術療法の補足ポイント
芸術療法は、治療技法としてだけではなく、診断法としての側面も持っています。
言語表現が十分にはできない幼児や児童、言語による対人接触が苦手なクライエントなどの場合には、心理的問題の所在を探り、そこに気づいていくという作業が困難ですが、芸術療法のような言語を介さない関わりによって、本質的な問題を明確化していくことが、可能となり得るのです。
診断的な利用の場合には、芸術療法の中でも、何らかの課題を与えるなど、制限的要素を含む方が適していると言えるでしょう。
芸術療法は、心因反応、心身症、うつ病といった精神医学的症状のみならず、児童・生徒の不適応行動などにも適用可能です。
ただし、扱う素材や内容、構造化の程度などによって、どのような問題、どのような病態水準のクライエントに適しているかは異なるため、そのあたりについてはしっかり認識しておく必要があります。
例えば、造詣療法やフィンガーペインティングはより退行的なクライエントに、風景構成法はより発達段階の高いクライエントに適するとされています。
自由度が高いということは、それだけ深い自己表現が可能ですが、自我機能の脆弱なクライエントは、元来、脆弱な防衛がさらに弱体化してしまい、危険な状態を招くことにつながりかねません。
したがって、自由度の高い技法を用いる際には、注意するようにしましょう。
心理学的な研究法を用いて芸術に関する研究を行う学問を芸術心理学といい、絵画、音楽、舞踊、小説などさまざまな芸術作品が題材として扱われています。
研究のアプローチも多種多様であり、音色やリズムをどのように感じるかという知覚・認知面の研究もあれば、美をどう捉えるかという価値観や文化差に関する研究、作品の登場人物の描写から作者の考えや特徴を読み取って分析を試みる研究などがあります。
近年では、芸術を鑑賞している人や表現をしている人の脳機能の変化を分析する神経科学的なアプローチも見られます。