家族療法

家族療法

家族療法の定義

私たちの多くが家族という枠組みの中において、年齢や性別、個性が異なる人が集まってお互いに影響を与えながら生きています。
そのため、個人の成長や発達、心理的な問題や心身の症状の形成にも家族が大きく関与している可能性が高いものです。
家族の誰かに心身の問題が生じたときには、その人の個人的な問題としてのみ捉えるのではなく、家族全体の問題として捉える観点を持つことが有益です。

個人に問題が生じているメカニズムを把握し、心理的・社会的支援をどのようにするのかを考える上で、家族を1つの動的な統合体として捉える家族システム理論という考え方が大いに役立ちます。

個人を対象とした心理療法では、セラピストとクライエントという二者関係を中心に支援を行います。
それに対して、家族療法では、家族システム理論に基づいて家族というシステムに働きかけ、家族システムの機能不全を変化させることで、個人の問題も解決できるように試みます。

1950年代頃から家族療法の実践が始まり、1970年代頃には家族療法に関するさまざまな理論や技法が提唱されるようになりましたが、そのいずれにも共通している家族システム理論の考え方をまずは理解していきましょう。

 
家族システム理論は、ベルタランフィ, L. の一般システム理論やミラー, J. G. の生物体システム理論などの影響を受けて誕生しました。
さらに、ウィーナー, N. が提唱したサイバネティクス理論は制御、調整、フィードバックなどの考えを通してシステムの特徴を捉えた理論で、これも家族システム理論に取り入れられました。

家族システム理論では、家族を1つのシステムというまとまりと見なし、家族の構成員、例えば夫婦や兄弟などは家族の下位システム、つまりサブシステムとして捉えられます。

一方で、地域社会や、コミュニティ、夫婦とその子どもの家族が同居する拡大家族などは、複数の家族からなるため家族の上位システムと見なされます。

家族療法

各システムの独自性は境界によって維持されており、あるシステムは、上位システムの構成要素として機能したり、より小さな下位システムを含む全体として機能したりします。
このように、各システムは相互に関連しており、それはシステムの階層性と呼ばれています。

家族というシステムは内外に開かれた開放システムとされており、1つの原因から1つの結果が生じるという直線的認識論ではなく、種々の要因が互いに影響を与え合い、それぞれが原因であり結果であるとする円環的認識論で理解するのが家族システム理論では一般的です。

 
家族療法において、クライエントのことはIPと呼び、家族の中でたまたま最初に症状を訴えた人として捉えます。
家族の誰かが何らかの困難を訴えたとき、その人だけに問題があると考えることは、多くの場合は適切ではありません。
家族の構成員それぞれがお互いに影響を与え合いながら家族生活を送っているので、家族全体や家族同士のコミュニケーションにおいて悪循環が生じているために、個人に問題や症状が生じていると考えることができます。

家族システムが上手く機能しなくなっても、家族関係を突然変えることは難しいものです。
家族の構成員が何か窮屈だと感じていても、日々の生活に対応していくのが精一杯であったり、何を変えればいいのかがわからなかったりすることは多いでしょう。

そのような状況で、IPが心身の症状という形で異変を訴えたときに、それを家族全体としての問題を振り返る機会だと捉えることで、家族全体もIPもより生きやすいあり方を探る糸口にできる可能性があります。

家族療法の関連キーワード

  1. 機能不全
  2. 家族システム理論
  3. 一般システム理論
  4. 開放システム
  5. 円環的認識論
  6. IP
  7. 形態維持(モルフォスタシス)
  8. 形態発生(モルフォジェネシス)

家族療法の補足ポイント

個人が成長していくのと同様に、家族もその形態を維持したり、変化させたりして成長していきます。

ウィーナーが提唱したサイバネティクス理論によれば、機械でも生体でも、目標に対するずれが生じたら、そのずれの情報をフィードバックさせ、ずれを修正して目標に近づいて行くような自動制御メカニズムが働くとされています。
このサイバネティクス理論に基づいて、家族システムでも自動調整のメカニズムが生じるとされています。
家族システムの内外の変化に伴い、そのシステム自体に多大な影響を与えて変化が生じると、ネガティブフィードバックを働かせて、その変化を制御抑制し、システムの現状を維持しようとする形態維持(モルフォスタシス)が生じるとされています。

それとは対照的に、家族システム内の変化を拡大させるような相互作用であるポジティブフィードバックを行って、システム自体を新しい形態に発展させていく形態発生(モルフォジェネシス)が起きることもあります。

つまり、家族は形態維持によって安定性や恒常性を保とうとすることもあれば、家族ライフサイクルの移行期などで変化が必要な場合は、形態発生によってシステムを変化させたりすることで、成長を遂げていくということです。

 
家族療法においては、このように家族をひとまとまりのシステムとして捉えることで、家族システム全体と環境との関係性や、家族の構成員の相互作用を客観的に捉えることが可能となります。

そして、家族システム全体が弱っている場合は、問題を抱える個人のみを支援するのではなく、硬直した家族のコミュニケーションパターンや家族構造などを変えていくことが、家族療法の目的であり、意義とされています。

MEMO

家族療法では、家族システム理論の考え方を基本に据えながら、コミュニケーション学派、戦略学派、構造学派などの学派が次第に形成され、また、リフレーミングや逆説的介入などの技法も多く開発されました。

家族療法の中から生み出された理論や技法は、現在では、ブリーフセラピーなどの、家族療法以外の心理療法にも応用されています。