推論の定義
推論とは、既知の事柄に基づいて新しい事柄について論じること、またその思考の働きのことです。
推論は、論理展開の違いによって、演繹推論と帰納推論との2種類に分けられます。
演繹推論は、複数の前提から結論を導くことです。
例えば、「人間は死ぬ」、「ソクラテスは人間である」という前提から、「ソクラテスは死ぬ」という結論を導きます。
それに対して帰納推論では、複数の事実から一般的な法則を導き出します。
例えば、「ソクラテスは死んだ」、「アリストテレスも死んだ」という複数の事実を基に、「人間は死ぬ」という結論を導きます。
推論の関連キーワード
- 演繹推論
- 帰納推論
- 4枚カード問題
- 主題化効果
- 実用論的推理スキーマ
- 類推
- 転導推理
推論の補足ポイント
人の推論の仕組みを研究するにあたって、ウェイソン, P.C.は4枚カード問題と呼ばれる課題を考案しました。
この課題では、表側にアルファベット、裏側に数字が書かれたカードが使用され、被験者はそれぞれE、K、4、7と書かれた4枚のカードを見せられます。
そして、「もし表側が母音ならば、裏側は偶数である」という規則を確かめるためには、どのカードをめくって確認する必要があるかと問われます。
正解はEと7ですが、この問題の正答率は非常に低いことが知られています。
しかし、アルファベットと数字の代わりに、例えばある4人について、その年齢と飲んでいる物についての情報を提示し、「お酒を飲んでいるならば、20歳以上である」という規則を確かめるといった問題に変更すると、正答率が劇的に上昇します。
このことから、抽象的な事柄よりも日常場面で遭遇する規則に関して問われる方が、適切に推論しやすいということがわかります。
こうした現象は主題化効果、または内容促進効果と呼ばれています。
チェン, P.W.とホリオーク, K.J.は、こうした実験結果をもとに推論の仕組みについて考察し、人間の推論においては抽象的な論理学的規則が使用されるのではなく、「Aを行うならば、Bという前提が満たされていなければならない」という、許可、義務や禁止に関するスキーマが用いられると考えました。
そして、このスキーマを実用論的推理スキーマと呼びました。
また、心理学では類推も、推論の重要な形式の1つとしてとり上げられます。
類推とは、ある事象AとBの間に何らかの類似性があるとき、事象Aに存在する性質が事象Bにも存在するだろうと推測することです。
ハトは木の実を食べ、羽があり、空を飛ぶことを知っているとき、仮にスズメのことを知らなくても、ハトに似ており、木の実を食べ、羽があるので、スズメも空を飛ぶだろうと考えることが例として挙げられます。
また、幼児が行う推理として特徴的とされる、転導推理というものもあります。
これは特殊事例から特殊事例を推理するものであり、演繹推論や帰納推論とは異なるものです。
ある時お父さんがお菓子を買って帰ってきたという事実から、その後おじいさんが帰ってくる時も、お菓子を買ってくるだろうと推測することが例として挙げられます。
転導推理は、論理的に一貫していない、一般法則が考慮されていないなどの特徴があり、ピアジェ, J.の発達理論の中では、前操作期に特徴的に見られる思考形式だと考えられています。
人や社会の出来事を対象とする推論のことを、社会的推論と言います。
社会的推論では、ニュースで見聞きした社会現象や、身の回りにいる他者の考えや意図、感情の状態などが推論の対象となります。
社会的推論の過程では、さまざまなバイアスが入り込みやすく、大人が行う場合でも必ずしも論理的な結論を導けるとは限りません。
他者の考え方について思い込みで誤った推論をしたりすると、不要な対人トラブルが発生してしまうこともあります。
そうしたことを回避するためには、客観的な情報に基づいて複数の視点から物事を判断するように務めることが大切です。