虐待

虐待

虐待の定義

虐待は、被害者の心や身体を深く傷つけ、その権利や生活に深刻な影響を及ぼす行為です。生命の危機につながる場合もあり、臨床的にも社会的にも深刻な問題です。

子どもから高齢者まであらゆる人が、虐待の対象となる可能性があります。
児童への虐待がもたらす問題については、近年社会的な危機意識も高まってきていますが、高齢者虐待や障害者虐待も重大な問題として認識されています。

 
虐待は、身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、そして心理的虐待に分類されます。
これらに加えて、高齢者や障害者に対しては、経済的虐待が起こりやすいと言われています。

 
身体的虐待は、児童の身体に外傷が残る、もしくは残るおそれがある暴行を加えることです。殴る蹴る、激しく揺さぶる、火傷を負わせるなどが含まれます。
その他、直接外傷を負わせなくとも、冬に戸外に締め出したり、溺れさせたりするなど、生命に危険を及ぼす行為も含まれます。

 
性的虐待は、児童にわいせつな行為をすること、もしくはわいせつな行為をさせることと定義されており、児童への性交や性的暴行がそれにあたります。
性器や性交を見せつけたり、ポルノグラフィーの被写体となることを強いたりすることもここでいう「わいせつな行為」とされます。

 
ネグレクトは、児童の心身の正常な発達を妨げる不適切な養育を意味し、育児の責任を放棄している状態とも言えます。
例えば、食べ物を与えない、季節に合った衣服を提供しない、夏の車内に放置する、同居人の児童虐待を放置するなどが挙げられます。

 
心理的虐待とは、言葉や態度によって児童に心理的外傷を与える行為のことです。言葉の暴力や無視に加え、きょうだい間で格差をつけたり、児童の面前で家族に対して暴力を振るったりすることも含まれます。

 
経済的虐待は、養護にあたる者が、本人が所有している財産を不当に使ったり、財産上の利益を得たりすること、また、本人が希望しているのにお金を使わせないといったことを指します。
例えば、養護者が怪我をしたときに、高齢者や障害者の年金から入院費を賄うといったことも、財産の所有者である本人の同意なく行われたことであれば、経済的虐待に該当します。
上記の結果、福祉サービスを増やす必要が生じてもその費用を出せないようなことになれば、年金の所有者本人の権利を奪うことになります。

虐待の関連キーワード

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  2. 性的虐待
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虐待の補足ポイント

虐待被害者の権利や利益を擁護することを目的に、日本では虐待に関する法律が制定、施行されています。

2000年には「児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)」が、2005年には「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(高齢者虐待防止法)」が、そして、2011年には「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律(障害者虐待防止法)」が制定されました。

児童虐待は、児童のその後の発達に大きな悪影響を及ぼす可能性があります。
また、虐待を受けた児童が親になった場合に、今度は自らが虐待を行う側になってしまう児童虐待の世代間連鎖が生じる事例も見られます。

高齢者虐待は、家族などの養護者による虐待と、要介護施設従事者などによる虐待に分かれます。
高齢者の中でも、介護を必要とする高齢者や、認知症を患っている高齢者が虐待の対象になりやすいと言われています。

障害者虐待には、養護者や障害者支援施設従事者などによる虐待に加えて、障害者を雇用する事業主(使用者)による虐待があります。
近年は障害者雇用の促進が目指されていますが、ただ雇用先を拡大するだけでは、十分な受け入れ体制を整えるのは難しいものです。
雇用先で社員研修を実施して、障害についての全社員の理解を深めるなどの対応もあわせて行うことが重要です。

 
虐待は起こってはならないことですが、虐待をする側も日々の疲労や悩みに耐えかねた結果、虐待に該当する言動を取ってしまうことがあります。
高齢者虐待防止法や障害者虐待防止法は、そうした家族の負担を考慮して家族の支援を行うことも目的に掲げています。

MEMO

虐待は、さまざまな要因が影響し合って生じます。
虐待する側の人の要因としては、パーソナリティ傾向、育児や介護に関する知識不足、疲労やストレスの積み重なりなどがあります。
虐待を受ける側の人が、重度の障害や認知症を患っているなどのため、本人の身体的精神的な自立度が低い場合は養護者の負担が増えやすく、それが虐待の一因となる可能性もあります。

また、福祉制度なども含めた社会的なサポートの有無、家族や親戚、関係者の協力の程度、孤立感、経済的困窮も虐待に関連する要因と言われています。